卓話


旅のチカラ

2016年6月15日(水)

(株)ジェイティービー 代表取締役会長
田川博己君


 「旅のチカラ」とは、交流、文化、健康、教育そして経済の五つのチカラです。
 昨年(2015年)訪日外国人は、1974万人と僅か2年間に1000万人以上の訪日外国人が増加し、国際旅行収支も2014年に44年ぶりに黒字に転じ、現在、日本経済の発展に大きく貢献しています。

 一方、2003年4月からビジットジャパンキャンペーンが始まり、2006年に観光立国推進基本法が成立、2008年に観光庁が発足、新たな観光立国推進体制になりました。戦後モノづくり中心の日本経済の成長は、近年、中国や東南アジアの成長が続く中で多くのモノづくりが日本から脱出しました。そして近年、観光・ツーリズムが新たな経済成長の国家戦略として認識されてきました。

 先般発表された、「明日の日本を支える観光ビジョン」では、次なるインバウンドの目標が示され、 2020年までに4000万人、2030年には、6000万人という大きな目標です。2016年に入ってもこの勢いは止まらず、今年中には2500万人程度にはなるものと想定されています。一方、国連の観光機関(UNWTO)では、2030年にアジア地域内を交流する人口は、4.8億人を想定しています。その中で日本の目標(6000万人)は13%程度であり、決して高い目標ではありません。

 さて、その中で、特に重要であるのが「交流のチカラ」です。国内外の交流促進は、相互理解を濃くし、将来にわたる平和の環境を醸成するのに最も大切な要素であります。今般、オバマ大統領が米国大統領として初めて広島を訪問し、新たな時代の幕開けとして世界に報じられました。まさに、大きな一歩です。

 一方で、今、日本では若者が留学や海外旅行など、国際交流に消極的だと言われています。事実、欧米の大学における日本人の留学生は激減しています。いまこそ、日本における若者の国際化を進め、将来の日本ブランド向上のためにも青少年交流は喫緊の課題です。

 次に、交流のチカラは、新たな文化を醸成していくチカラも持っていることです。古くは江戸時代にさかのぼると、旅のチカラが発達したのは江戸時代です。旅と平和はいつも車の両輪のごとくセットで動いています。江戸時代、260年の間に旅文化は進化を遂げました。

 江戸時代には300近い藩が存在し、各藩の中で生活文化が育まれ、一方で、参勤交代や人々の移動によって多くの藩の文化が江戸に持ち込まれました。旅文化もその一つではないかと思います。 その代表的な例が、お伊勢参りや富士講などの旅でなかったか、また、農閑期の湯治場は、健康回復のためのヘルスツーリズムではなかったか。こうした流れの中で、江戸文化は花開き、今に続いています。文化が花開くには平和で豊かな環境が必要であり、そのことが結果として様々な旅を醸成していったと思います。鎖国時代の日本は世界の潮流とは異なった世界を作りましたが、旅に関して言えば、多くの旅のチカラを養った時代ともいえます。

 戦後、1964年(昭和39年)に東京オリンピックがやってきました。そして、後4年で再び東京にオリンピック・パラリンピックがやってきます。1964年当時、戦後の中で驚異的な復興を遂げ、日本の高度成長の起爆剤としてオリンピックが開催されました。そしてツーリズムにとっても、この時期は海外渡航の自由化(1963年)という大きな節目になりました。2020年に向けて、現在、世界経済が置かれている環境は、決して穏やかではありません。テロ、難民、感染症、自然災害など多くのリスクを抱えています。

 一方で日本ではこれから4年間、2019年にはワールドカップラクビー、2020年のオリピック・パラリンピックなど世界中が注目するスポーツイベントが開催されます。この大きな節目の時期を、日本は何をもってアピールするのか、平和の国、文化豊かな国、おもてなしの国、優しい国、安全・安心の国など、テーマは沢山ありますが、日本の観光立国の真髄を見せたいと思います。そして、そのキーワードは、「日本の生活文化力」であり、更に掘り下げて進化させる必要があります。そのためにも、もう一度、多くの国民が「旅のチカラ」「交流のチカラ」を、色々な角度から再認識し、この期間を試金石として、2030年へ向け、観光大国の道を着実に進めようではありませんか。