卓話


イニシエイションスピーチ

2009年9月9日(水)の例会の卓話です。

平野靖君

 先進医療技術とメディカル・デヴァイス・ラグについて

  ブラッコ・エーザイ
  代表取締役社長 平野 靖君
 

 先進医療技術とは大きく分類して5つの分野に整理できます。又これは所謂先進医療機器(メディカル・ディヴァイス)と略不可分のものと考えられます。その5つと言いますと、
 1.生体画像診断:CT/MRI/PET/超音波画像診断装置/サーモグラフィー/3次元画像表示/内視鏡/CR(Computed Radiography)/PACS(スパコン)などなど。
 2.画像監視下治療:内視鏡下手術/体外衝撃波結石破砕術/血管内手術/PTCA/マイクロサージャリー/レーザー治療器/ガンマナイフ/放射線治療/ドラッグデリヴァリーシステムなどなど。
 3.検査診断技術:フロ−サイトメーター/自己血糖測定器/自動生化学分析装置/経皮的血液ガス分析/遺伝子診断/DNAチップなどなど。
 4.人工臓器・再生医学:人工心臓/心臓ペースメーカー/埋め込み型除細動器/人工骨/人工関節/人工内耳/組織培養などなど。
 5.その他:手術ロボット/遠隔治療/電子カルテ/ナノテクなどなど。
 先進医療技術が必要とされる根拠は何かと申しますと、医療を受ける側と、それを供給する産業の面と両方がございます。

 医療を受ける側が先進医療技術に求めるものには、その成果とその過程(プロセス)の2面があります。成果とは、患者さんの救命、延命、治療、予防又は早期発見等の成果で、過程(プロセス)とは、その成果を得る為に全く体を傷つけない無侵襲、深くは傷つけない低侵襲等により患者さんの苦痛を軽減し、術中術後のQOLを向上させるような技術の事です。

 そういった先進医療技術の実例の一部は皆様にお配りさせていただきました、東京女子医大名誉教授の桜井先生が監修されました小冊子「出会えて良かった!」をご覧下さい。
 2008年10月に公表された日本の医療機器に関する在日米国医療機器・IVD工業会の調査によれば、日本では欧米先進国で用いられている先端医療技術の半分しか使えていないと言う事、また、米国で使用されている先端医療機器で、日本で申請しない、と決定した品目は米国で流通しているものの実に36%に及ぶ事が解りました。申請しない、又は出来ない、と判断した理由の内、政府承認に関連する理由が約半分を占めております。 その理由とは、高い規制関連コスト、承認にいたるタイムラグ、行政機関に対応出来る供給側の人材の不足の3点です。

 この様に日本に上梓しない、或いは上梓できない状態はジャパンパッシングと言えます。このジャパンパッシングと、3年の長きにわたる「承認の遅れ」がデヴァイスラグを生み出しています。一方、医療機器の改良は約1年半に一回のサイクルですから、日本で3年遅れで漸く認可されたときには既に2世代ほど旧式になっています。不名誉な話ですが日本市場は「世界の中古市場」などと揶揄されているのであります。
医療機器の審査をする独立行政法人の担当人数も圧倒的に足りません。民間のメーカーのコスト負担により過去に26名だったのを104名に増やすと言う話を伺っておりますが、アメリカでは何年も前から1000人を越えているのですから全く話になりません。思い切った積極策を求めるところであります。

 最後に医療技術の供給側の産業的側面に付きましては、現在の市場が31兆
円で、2025年には内輪に見積もっても65兆円になると厚生労働省が推定しております。この市場を外国に任せず、日本の産業が持つ機械工学、材料工学、エレクトロニクス等の高い基礎的技術力を高度に具体化し、更に医療立国として世界に打って出ると言った、経済産業省的側面も重要かと思いますが、現状では逆の方向ではないかと危惧いたします。医療産業立国の可能性の為に規制当局の厚生労働省と産業推進の経済産業省が本当の意味での協力を行う、と言った夢のような事態を祈念せざるを得ません。