卓話


キリマンジャロの麓に女子中学をつくる

2015年9月30日(水)

一般社団法人キリマンジャロの会 代表
慶応義塾大学・東京都市大学 名誉教授
岩男壽美子氏


 キリマンジャロは、東アフリカのタンザニア北部に位置しています。日本からはキリマンジャロ空港に直行に近い形で行くことができます。高原の街で、周囲に多くの自然保護区があり、サファリへの玄関口でもあります。Sakura Girls Secondary School(以下、さくら女子中学)は、キリマンジャロ空港から車で約40分のところに建設中です。

 私がタンザニアと関わることになったきっかけは、20年来のアメリカ人の親友の一人息子が交換留学生としてキリマンジャロの麓のマサイの女性の家にホームステイをしたことでした。彼が1年間生活を共にしたことで、その女性の人柄がとてもよくわかり、私はこの女性と共に、2008年から貧しい女性のためのマイクロ・クレジット(少額融資事業)による自立支援を行ってきました。それが発展して、ここで中学を創ることになりましたが、それはひとえに信頼できる現地人が存在することが大きいと思います。

 タンザニアは、日本の2.5倍の国土に4900万人の人口がおり、高い人口増加率が問題です。2010〜2015年の間に627万人増加しており、逆に日本ではこの間に132万人が減りました。GDPは2012年で640ドルですから、1日2ドル以下で暮らしている人が非常に多いということになります。コーヒー、お茶、金、ダイアモンドなど、資源がありながら貧困状態にあるのは人材不足が大きな原因です。どうしても教育が必要だと考えています。

 タンザニアの教育制度は、初等教育が7年で、これは質を問わなければかなり行き渡っています。問題は中等学校です。6年制で、進学率は3割に達しません。さくら女子中学では、普通課程の4年間の教育を行い、将来的には2年間の上級課程を追加し、中等教育を完了できるようにしたいと思っています。

 タンザニアでは、中学卒業の国家試験の結果に男女差が非常に大きく、2011年の合格率は男子62.5%、女子54.5%でした。これは、女子教育の必要性を物語っています。女の子に能力がないのではなく、勉強よりも家事を優先させられているためです。スイッチ一つでガスや電気がつくような世界ではなく、薪を集めたり、水汲みをしたりする時に片道1,2時間かかるような苛酷な家事をさせられるために勉強できず、ジェンダーギャップが生じるのです。

 学校教育環境は、設備面、資材面ともに足りないものばかりです。教師の数はもちろん質も問題で、資格のない人が教えている状況です。その結果、学び方は教師中心の非対話型で、生徒は受け身で、数学でも丸暗記です。教師が黒板に正解を書くのを待って、そこで初めて一冊しかないノートにボールペンで書き写す。それが彼女たちの教科書兼ノートです。自ら主体的に考えて問題を解く姿勢には繋がりません。これを改めるための一つの試みとして、リサイクルミニ黒板の貸与を計画しています。日本で不要になった黒板をA3サイズに切り、生徒に貸し出します。黒板を自由に使い、間違えることを通して考える力がつくようにします。

 さくら女子中学はマサイの村に創ります。マサイの通例として、進学しなければ女の子は10代初めに結婚させられます。結婚では、持参金ではなく牛が重要視され、女の子は牛とトレードされるのです。早婚の結果、子供が沢山産まれ、貧困層が拡大再生産されています。

 日本もかつては「貧乏人の子沢山」と言っていました。日本の経験から進学率と出産数は負の相関関係にあることを私達は知っています。貧しい国は、乳幼児死亡率や妊産婦死亡率の高さなどいろいろな問題を抱えており、これらを下げるために国連をはじめさまざまな機関が支援活動をしています。そして、これは女子教育によってかなり抑えられることが分かっています。つまり問題の根幹に手当てしなければいけないと思います。

 さくら女子中学校では全人教育を目指し、健康教育、環境保全教育、食育、国際理解などを行います。これらは生活習慣の改善に繋がります。タンザニアでは子育てを女性が担っていますので、少なくともその効果は次世代に及ぶでしょう。それから、人口の半分を占める女性の潜在能力を開発することで、援助に依存する状態から経済成長・社会発展の牽引役にすることができ、それにより国際社会もメリットを享受できるようになると思います。

 日本による支援は、次世代の負担を軽減することにもなります。日本は少子高齢社会で、私達の子供や孫達は私達の面倒を見ることに加えて、途上国の面倒も見ることを求められます。私達には次世代の負担を軽減する手当をする責任があります。つまり、女子教育支援は日本を含む先進国のためにもなります。また、日本には大変豊かな経験や知識を持つ元気な中高年の方が大勢いますので、そうした方達に生き甲斐の場を提供し、若者のグローバル人材の育成に貢献することもできると思っています。

 そして、現在存在感が希薄な日本の存在感を高め、知日派を育成します。日本の女子教育の歴史を振り返ると、約140年前に海外から来た宣教師などが苦労して創ったミッションスクールが女子教育の発展に大きく貢献しました。私は、今度は日本がそれを行う番で、同じようなことができるはずだと思っています。

 さくら女子中学は、来年1月の開校を目指しています。目標は、知日派の女性リーダーを育てることです。対象は、意欲はあるけれども、シングルマザーの子供や孤児など恵まれない家庭の子女です。規模は1学年50名で、完成時には4年課程で200名になります。

 授業はタンザニア政府の方針で、英語で行います。そして、全寮制です。自宅からの通学では徒歩で片道1、2時間かかり、勉強する時間が取れなくなります。さらに、雨季になると歩くのさえ困難になりますし、街灯がない道を長時間歩くのは非常に危険で、レイプによる妊娠が多い原因の一つにもなっています。それらを防ぐための全寮制です。

 そして、理数科を重視します。タンザニアは男性優位社会で、その中で女性が活躍し地位を向上していくには、目に見える形で実力が評価されなければなりません。その結果としてタンザニアが特に必要とする技術者、医療関係従事者、科学者など様々な分野の人材を輩出します。そのため、数学や理科の教師は日本などから派遣します。

 日本のものづくりを支えた丁寧さや細部へのこだわり、自分で工夫し改善するという日本的価値・行動様式は汎用性ある付加価値です。それらをしっかり習得した人を輩出すれば、現地に進出する日本企業にも役に立つと思います。学校は、日本の技術・製品・文化のショールーム、対日理解、日本紹介の拠点にするほか、愛媛で開発された陽光桜という、タンザニアでも育つ桜を植え、アフリカで唯一の桜の名所にしたいと考えています。

 現在、校舎は建設中で、大半はODAによる資金です。タンザニアの学校登録に不可欠な理科実験室3室と図書館棟は、皆様にお願いして募金活動をして建てていますが、まだ足りないものばかりです。貧しい家庭の子供が生活して学ぶためには一人につき年間約12万円が必要となるため、ご寄付者の名前のついた奨学金を募集し、提供することを考えています。

 日本の中高年の方にご活躍いただく場としては、On-line家庭教師サービスの提供を考えています。スカイプ等ITを活用し、子供達の勉強を日本やアメリカなどからサポートしていただくことを考えています。

 この学校で学びたいと言っている子供達の将来の夢は、科学者、医者、教師などで、こうした願いが叶うようにと願っています。

 教育は学校を建てておしまいではありません。もちろん、いつまでも援助を続けるわけではなく、できるだけ早く現地で経済的に自立する方策を考える必要があります。教育と関係がある、あるいは現地の生活向上と関係するような収入源を、知恵を絞って考えていき、自立した学校経営ができるようにしたいと思っています。


        ※2015年9月30日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。