卓話


地球との対話と社会との対話

2011年2月9日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

東京大学 地震研究所
広報アウトリーチ室
助教 理学博士
大木 聖子氏

 地震学という学問は,科学としての真理を追求するだけではなく,その成果を如何に人命に役立てるかが求められる学問です。

 1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では各種のライフラインに被害が及びました。震源のすぐ近くでの,強い揺れが続く時間は10秒から15秒ぐらいの短い時間だったことが分かっています。

 この地震では,たった10秒間の揺れのために,6,434人の方々が亡くなりました。その8割の人は,家屋や家具による圧死です。そして1割の方々は火災による焼死です。つまり,9割の方々は,ご自宅が凶器になって亡くなられたのです。住宅の耐震や家具の固定が如何に重要かが分かります。日頃からLEDなどの小型懐中電灯の携帯も必要です。

 1月末には,東大地震研究所の教授が霧島連山の新燃岳に入って調査を実施しました。直径が7〜8センチもある岩石が2キロ先まで飛散しています。空からの調査で溶岩ドームが形成されているのが認められましたので,これは本格的な噴火になると確信しました。

地震や火山噴火によって,普段は想像もできないような大自然のエネルギーの大きさを,我々は目の当たりにします。今日はその背景とそれらへの対策についてご紹介いたします。

1.なぜ日本は地震・火山国なのか。
 大自然の持つエネルギーを感じ取れる所あるいは,そのエネルギーの被害を受ける所は地球上では非常に限られています。

 日本が特に,その被害を受ける地域にあるのはなぜでしょう。
 世界中で,過去30年間に起きたマグニチュード5以上の地震すべてを地図上にプロットしてみますと,地震は限られた所でしか起きていないのがよく分かります。

 地震が起きている場所をつなぐと,プレート・テクトニクスの存在が浮かび上がってきます。例えば,日本列島の東側からは太平洋プレートが日本の下に潜り込んでいます。潜り込む先々で地震を起こしているのが分かります。日本の南側には東海地震を起こすことが懸念されているフィリピン海プレートがあり,日本に向かって進んできています。これらのプレートのせいで日本では地震が起きるわけです。

 更にそこに注目してみると,プレートの境界で起きる地震とは別に,日本列島の内部でも地震が起きているのが分かります。16年前の阪神・淡路大震災もこれと同じものでした。

 このように,日本列島では,海のプレートの境界で起きるプレート境界地震と日本列島の内部で起きる地殻内地震(直下型地震)の二つのタイプの地震が起きていることが分かります。日本は地球表面の1%も占めない国ですが,世界の地震の10%が,日本列島で起きています。私たちが感じないものまで含めると,日本列島だけで一日に300回の地震が起きています。

 火山のある場所を見てみますと,野球ボールのつなぎ目のように海の中にプレートが生まれている所「海嶺」では,山脈のような火山が形成されます。ハワイで有名なホットスポットでは,マグマが上がってきて,それが火山島を造っています。このようなでき始めの状態での火山の生成はごく自然に理解できますが,終わって沈み込むプレートで火山ができる過程は,長く疑問視されてきました。

 それが分かったのは,さまざまな観測機器の発達と岩石分析の進歩の結果でした。
 海洋プレートが生まれてから沈み込むまで,例えば日本の下でしたら,2億年ほどの長い旅をしてきます。日本に来る頃には岩石の中に随分と水がしみ込んでいます。それが日本列島下に深く入ってくると,増加していく圧力に耐え兼ねて水の成分だけが出てきます。この水分が大陸の岩石と混ざってマグマを造り,軽くなって上がって来ます。このように,冷えて固まったプレートが沈み込むような所で暖かい火山が生まれるメカニズムが解明されました。

 いま噴火している新燃岳もそうですし,首都圏に近い浅間山も,このようなメカニズムで形成された火山です。

 昨年の4月にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山が噴火しました。アイスランド自体は海嶺の上にある島国です。この国は,海嶺の下にホットスポットがあるという珍しい場所なのです。ホットスポットの直上にある所だけ海から顔を出しています。

 新燃岳が出した灰の量は,アイスランドの火山に比べるとずっと少ないのですが,既に航空障害を与える量に達しています。幸いにも直接の航路に被害はなかったのですが,火山灰の影響は鹿児島や宮崎に及んでいるのはご存知の通りです。

2.地震研究所について
 「地震研究所は本郷にあるのか」というお尋ねをよくいただきます。かつては,安田講堂の裏にありました。今は根津神社の隣り,昔,第一高等学校の寮があった所に,1970年に引っ越してきました。地震研究所は,関東大震災の2年後の1925年に,寺田寅彦博士,長岡半太郎博士らが防災のための研究を呼びかけて設立された研究所でした。

 その創立10周年の時に寺田寅彦博士が起草された言葉には『本所永遠の使命とする所は地震に関する諸現象の科学的研究と直接又は間接に地震に起因する災害の予防並びに軽減方策の探究とである。』とあり,以来86年,我々はこのスピリットを抱えて研究を進めています。銘文は『この使命こそは本所の門に出入りする者の日夜心肝に銘じて忘るべからざるものである』と続けられています。今も,来た人が必ず見ることができるように,エレベータの所に掲げています。

 地震研究所自体は本郷キャンパスにありますが,各地に観測所を持っており,特に火山の前兆現象をつかむことに尽力しています。

 浅間山は今も立派な活火山です。浅間観測所は,日本の近代火山観測発祥の地といわれています。ちょうど百年前,浅間山が起こした噴火を機に近代火山学が始まり,それとともに歩んできました。現在はミュージアムとして改装中です。いずれオープンの際には,是非おいでになってください。

3.日本の厳しい地震・火山環境への対応策
 火山噴火の予測は地震予知に比べると容易なのです。火山噴火の予知は,地震計や気圧計,傾斜計などの観測網を整え,岩石の分析を進めることで可能になります。一方で,いつ噴火が終わるかの予測,あるいは今後の推移の予測が困難となっています。

 今回の新燃岳の噴火を例にとりますと,歴史的に精査して参考にできるのは300年前,1716〜17年の噴火一回きりです。この時は,水蒸気爆発があって,その8カ月後にマグマ噴火がありました。それから7カ月後に大噴火を起こしました。この例から見て,今回の新燃岳の噴火も最悪のシナリオを想定しつつ,次の兆候をとらえる努力をしています。

4.地震の対策について
 阪神・淡路大震災以降可能となった実大実験で,築30年の木造建築の2階建て住宅の強度を測ったところ,1階が潰れるという結果になりました。続く余震では2階も倒壊します。先ずは,就寝は2階で,とこの場で申し上げておきます。

 地震の発生を予知することは難しいと申しましたが,日本列島での,今後30年での発生確立の長期予測(海の地震)は可能です。

 まず宮城県沖地震(M7.5前後)は今後30年での地震発生予測は99%となっています。同様に,東海地震(M8.0前後)はおよそ87%,東南海地震(M8.1前後)は60〜70%,南海地震(M8.4前後)は60%の確率で起こると予測されています。

 これらと地盤の情報を合わせて,地震動の予測地図も作りました。東京の日比谷では今後30年に震度6弱,5弱以上の揺れに見舞われる確率として,「震度6弱:15.5%,震度5弱:99.6%」と予測されています。

 関東大震災の際の「ゆれ」の分布を調べてみると,過去に沼や川があった所,低地だった所がひどく揺れた場所であることが分かります。

 15%という数値は実際にどういう意味をもっているでしょう。私は降雨確率15%といえば傘を持たずに外出します。心理学の知見を活用して,身の周りで起きたら嫌なことを諸々集めて,30年間の発生確率を求め,それらと比較してみました。空き巣狙いにあう確率は3%,火災は2%です。これらと比較して,地震に遭う確率15%という数値がいかに大きいかお分かり頂けるでしょう。火災保険には入ってらっしゃると思いますが,地震保険はいかがでしょうか。ご家族と,地震が起きた場合について話し合っていらっしゃるでしょうか。

 最後に,高層ビルだけを襲う地震の被害がありますので,その話をいたします。
 十勝沖地震の時,苫小牧で,石油タンクだけに大きな被害が出るという現象がありました。これは,平野や盆地がキッチンボールに入れたプリンのような状態で,キッチンテーブルを揺らすと揺れるのと同じです。

 高層マンションというのは,そのブルブルとした揺れに共鳴して大きく揺れます。外を歩いている人では感じないようなゆっくりした揺れを,ビルとその中に居る人だけが感じてパニックを起こすような事態が懸念されています。

 何も対策をしていないビルではコピー機も凶器になります。大きな什器を固定したり,不必要な棚を排除するなどの対策が必要です。

 高層ビルは片幅1メートル揺れても折れることはないといわれていますが,中の家具による被害やファシリティーの被害が懸念されています。停止したエレベータを再稼働するためにはエレベータ技師が必要ですが,首都圏の全てのエレベータを回復させるにはどれほどの時間がかかるでしょうか。これらも念頭に入れて備えて頂けたらと存じます。

 こういった諸々の防災教育は,常に行うことが必要です。小学生向けの防災地図なども用意していますので,ご希望の向きがありましたらどうぞご連絡ください。