卓話


2010年FIFAワールドカップ南アフリカ大会を終えて

2010年9月8日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

財団法人日本サッカー協会
副会長兼専務理事
田嶋幸三氏 

 2005年の1月1日に国立競技場で行われた天皇杯のハーフタイムに,当時の会長,川淵三郎氏が宣言した「JFA2005年宣言」を拠り所にして,我々は,すべての活動を実行していると言っても過言ではありません。

 即ち,「JFAの理念」は,「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し,人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する。」

 この宣言は各種スポーツ競技あるいは会社の社訓にも共通するものですが,大切なことは,常にそれを意識しながら活動することが我々にとって重要なことだと思っております。

 宣言での「JFAのビジョン」は,「サッカーの普及に努め,スポーツをより身近にすることで,人々が幸せになれる環境を作り上げる。サッカーの強化に努め,日本代表が世界で活躍することで,人々に勇気と希望と感動を与える。常にフェアプレーの精神を持ち,国内の,さらには世界の人々と友好を深め,国際社会に貢献する。」です。

 そして「JFAの約束2015」は,「2015年には,世界でトップ10の組織となり,ふたつの目標を達成する。1.サッカーを愛する仲間=サッカーファミリーが500万人になる。2.日本代表チームは,世界でトップ10のチームとなる。」というものです。

 現在,サッカー協会に登録している選手が100万人。同じく登録しているレフリーが20万人。コーチが7万人。その他フットサル,役員等を入れて実質130万人近くの人たちが活動しています。大学の同好会であったり小学生の低学年であったりする人たちも加えると,約350万人と考えてよいと思います。

 単に数合わせをしようとは思っていませんが,今後5年の間に,我々はサッカーファミリーを増やしたいと思っています。他のスポーツ団体から人を奪って,サッカー人口を増やそうというのではなく,サッカーを見に来てくださる方,応援してくださる方を含めて,500万人にすることを目指しています。

 日本代表チームが世界でトップ10のチームになるという約束について言いますと,実は今回のワールドカップでの日本は第9位でした。ベスト16で,ベスト8には入らなかったのですが,公式のカウントの仕方で言いますと負けていないのです。PK合戦は負けにはなりません。引き分けになります。そこで,ベスト16の中で最も成績のよいチームということで,我々は第9位でした。

 試合後の記者会見で,「9位になったのだから『JFAの約束2015』は修正する必要があるのではないですか」と問われましたが,我々は,全く,そうは思っていません。

 現在の日本チームの,世界でのランキングは第32位です。トップ10は年々の大会によって変わりますが,常時,10番から20番以内にいるチームでいたいと思っています。

 そして「JFAの約束2050」の目標では,日本の人口が7千万人ぐらいになっていると試算(総務省推定)していますが,そのうちの1千万人をサッカーファミリーにしたいと願っています。この目標がどれ程大変な数字かということは重々分かっていますが,サッカー協会という組織の中に,脈々と伝えていきたいと思っています。

 また,「日本が,もう一度,ワールドカップを単独で開催したい。その時には優勝できるチームでいたい。残念ながら,2002年には優勝できる実力がなかった。今度はワールドカップを日本で開催し日本代表チームが大会の優勝チームになること」を掲げています。

 我々は「DREAM 夢があるから強くなる」というスローガンの下に「JFA2005年宣言」を進めています。今回の大会で,岡田監督がベスト4と言ったのは,一つの目安にもなっているとご理解ください。

 この「JFA2005年宣言」は,我々のミッションステートメントであり,日々のあらゆる活動を方向づけるものです。この宣言が出た当時は全ての職員が強く意識していましたが,残念ながら最近は必ずしも徹底しているとは言いがたい状況です。それをどう意識化するかが,本当に大事なことです。

 世界で何位に入るかという問題は,現場の選手や監督には分かりやすい課題です。協会の様々な職種の職員の全てにも,共通の意識を徹底することが重要です。我々の傘下には,47都道府県のサッカー協会があります。その人たちにも,この「JFA2005年宣言」を浸透させなければ,この夢は実現できないと思っています。

 ミッションステートメントを徹底してやるからこそ文化になると思います。我々がひたむきにJFAの理念を実践することが,多くの応援を得る源になっていくと思います。
 サッカーの歴史をひもといてみると,イングランドに初めてフットボール・クラブができたのは1857年。日本の江戸時代末期です。イングランド・サッカー協会が創立されたのは1863年。思えば彼らが150年かけてやってきたことを私たちは50年でやりたいと考えているわけです。

 歴史から学ぶことはたくさんあります。メキシコオリンピックで銅メダルを取って,三菱重工対ヤンマーディーゼルの試合では3〜4万人の入場者があった,というブームが去った後,1970〜80年代に,私が試合していた当時の国立競技場は,がらがらでした。

 我々は,そんな時代に戻りたくないし,戻してはいけないという決意をもって活動しています。

 サッカー界において「日本人は基本を忘れる国民」だと言われていることを意識しないといけません。日本人は,常に新しいもの,もっといいものを求めます。実は日本サッカーが成功している時は,基本を徹底している時なのです。クラマー監督は,パス&ゴー,ルックアラウンド,ミートザボールで銅メダルをもたらしました。1992年からのオフト監督はトライアングルやアイコンタクトという基本的な指示を徹底しました。1998年のトルシエ監督も基本を言い過ぎると批判を受けました。

 多くの人は「型にはめている」とか「個性がない」とか批判します。私は,型にはめることではなく,オートマティックに何でもできる選手,ボールを止めて蹴ることを自由にできる,ボールをもらう前に視野を確保して判断してからボールを受けることができるなど基本中の基本を徹底したことが大きく成功したと思います。
 岡田監督は,唯一日本人監督として,基本を徹底した監督でした。ワールドカップが始まるまでの日本は45位。終わった時は32位です。

 今回の大会が好成績であった要因について考えてみます。昨日のグアテマラ戦に日本の代表選手が集まったのは3日前でした。ブラジルやドイツの選手ならいざ知らず,残念ながら,このような短時間でチームを作り上げられるほど,まだ成熟しているとは言えません。しかし,今回のワールドカップでは,代表チームの活動期間を40日間確保できました。その結果,特に守備面での基本コンセプトが徹底されました。本田の1トップへの起用も当たりました。これは岡田監督の決断でした。

 今回も初戦が如何に大事かを知りました。前回大会2006年のオーストラリア戦の敗北はまさにそうでした。

 今回,6月14日のカメルーン戦は相手のコンディションがよくありませんでした。これもラッキーでした。6月19日,オランダ戦の結果は0−1で敗れましたが,日本の守備が通用するという自信につながりました。6月24日のデンマーク戦は1−3。6月29日のパラグアイ戦は0−0。PK戦は3−5で惜しくもベスト8の壁は破れませんでした。

 大会には,23名の選手の他,多くのスタッフを送りました。トレーナー,ドクター,広報担当,輸送担当など30名近い人たちが,よくまとまっていたことも勝因の一つです。

 高地対策も完全でした。シェフの人たちは幾つかの圧力釜を用意していました。裏方のすべては完璧でした。それらのことが,今回の好結果につながったと思っております。

 今,私たちは,「JFA2005年宣言」に基づいて2022年のFIFAワールドカップの招致活動を行っています。

 ワールドカップを見ても,スポーツには,人を変える力,社会を変える力,地域や国を変える力があると感じます。

 サッカーは国際的プレゼンスにふさわしいスポーツです。我々も,それに見合う活動をしていく必要があると決意しています。

 「FIFA加盟国の208カ国・地域の全ての人々に笑顔を与えられるような大会にする」が招致のキャッチコピーです。そして「2050年までにFIFAワールドカップを日本で開催し,そこで日本チームが優勝する」が,「JFA2005年宣言」の「JFAの約束2050」です。
(この後,今回の大会のハイライト・ダイジェストが放映され,世界から集まった観客の笑顔や選手の活躍が紹介された。)