卓話


イニシエイションスピーチ

2012年11月21日(水)の例会の卓話です。

御立尚資君
大浦溥君 

変化適応力

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日本代表 御立 尚資 君

 いわゆる戦略コンサルタントの仕事は、従来、ミクロ経済学、社会学、心理学といった社会科学から枝分かれした経営学の枠内で、企業間の競争に関わる意思決定とその実行をお手伝いすることが、主たるものでした。

 しかし、企業を取り巻く環境変化の大きさとスピードは増すばかりであり、さまざまな変化への対応力、すなわち変化適応力を持つ組織をどう作り上げるか、ということが大きなテーマになってきています。

 たとえば、数多くの業界で、業界内の順位変動の速さ・大きさは目を疑うほどですが、その要因は既存企業同士の優勝劣敗だけではありません。これまで常識として考えられてきた「規模のメリット」自体も、その有効性が見られない業界が増えており、従来型の経営学だけでは対応できない「変化」が増えている状態です。

 こういった「変化の常態化」の背景には、いくつかの要因が存在しますが、近年とみに、環境激変を産むような構造要因が複数顕在化、かつ相互に連関するようになってきています。

 この構造要因の中には、今後数十年継続するものも数多くあります。これらは、すべての経営者が念頭に置いておかねばならないことだと考えますので、少し詳しくお話ししたいと思います。

 環境激変の要因には、大きくわけて3つの流れがあります。

 まずは,人口変動から来るメガトレンドの流れ。これは、米国一極集中から多極化へのシフト、新興国経済の躍進、それらに伴う地政学リスクの増大、あるいは、さまざまなサステナビリティの課題につながるものです。

 次に,ICT技術の大幅な進展から来る技術と競争のあり方の進化、という流れ。規制緩和があいまって、旧来の業界の壁を越えた競争、さらには製造業のサービス化や水平分業・アウトソースといったビジネスモデルの継続的な進化・革新が生まれてきています。

 最後に、長期にわたる先進国の金融緩和、およびデリバティブに代表される金融技術・商品の進化から来る流れ。エネルギー、CO2排出権、食料といったさまざまなものが金融商品化してきたこともあり、広義の金融・資本市場の広がりはすさまじいものがあります。結果としてボラティリティが高まり、あちこちでバブルが発生・崩壊しては実態経済に影響を与えるということになっていますが、これを効果的にガバナンスするグローバルな仕組みはできあがっていないのが実情です。

 こういった構造的要因が複雑に絡み合い、変化が常態化する中、国や社会、あるいは企業はどのように変化適応力を高めていくべきかを、我々も世界中の企業経営者の方々と考えているわけです。

 その中で気付かされたのですが、「日本出身の企業には、特徴的な強みと弱みがある」ように思えます。

 強みは、変化から立ち上がり、そこから学んでカイゼンする力。英語にするとresilienceとcontinuous improvementということになります。

 地震・台風といった自然災害に頻繁に襲われてきた日本社会には、痛めつけられても立ち上がり、次の災害の時には、教訓を生かして被害を少なくする、という力が備わってきたようです。

 関東大震災後、世界で初めて耐震基準を含む建築基準法を制定したり、阪神大震災からの学びで、地震波を早期にとらえて事故を防いだ東北新幹線のような事例が、これにあたります。

 一方で、経験していないこと、すなわち「想定外」に備え、徹底的に考え抜き、準備しておく、ということは、総じて苦手な社会であり、企業であるように感じます。

 米国では、国家情報会議(NIC)という組織が、「発生確率は低いが、発生すると米国に甚大な影響を及ぼす」シナリオを作り、政策立案と実行に活かす、というような仕組みがあります。

 これは国家レベルの話ですが、企業レベルでも、「メインシナリオに基づく中期計画」といった想定内のプランニングだけでなく、「メインではないが、発生したら重大な影響がある」シナリオのプランニングをすることが必要なのではないでしょうか。

 もともとの強みに加え、こういった能力を付け加えれば、日本発の企業群がグローバル市場で輝きを取り戻すことは十分可能ではないかと思う次第です。

先端技術を先端で支える

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名誉顧問 大浦 溥 君

 今日は半導体製造装置業界についてお話しします。

 2011年に世界一のスーパーコンピューターとなった「京」の演算速度は,1秒間に10の16乗回を超えています。それは70億人が17日間で行う計算を1秒で終わらせる速さです。「京」の8万個以上の中央演算処理装置は,半導体試験装置で試験されており、「先端技術を先端で支え」ていることがよく分かります。

 2012年の半導体市場は低成長に留まる見通しですが、元気なのがスマートフォンやタブレット端末で、市場を牽引しています。

 半導体は身の回りで活躍しており、ほとんどの家電に組み込まれています。自動車は、エンジンの制御、パワーウインドウなど、全て半導体の働きに依存していて,走る半導体と言っても過言ではありません。

 現在、スマートシティと呼ばれる新しい街づくりの実験が世界各地で進められています。これらのプロジェクトは、半導体なくしては実現できません。

 このように、半導体の応用範囲は広がり、一つの機器に組み込まれる半導体の種類や数も増えています。

 このような半導体業界を支えるのが半導体製造装置業界です。半導体の製造には多くの工程があり、各工程で製造装置が必要です。したがって、一口に製造装置業界と言っても、多くの種類の装置に分かれています。

 製造装置の2011年度売上上位20社中8社が日本メーカーであるように、日本メーカーが頑張っています。また、日本メーカーが世界一のシェアを持つ装置も多くあります。
 
 製造装置業界は半導体業界と同様に足元はよくありませんが、先行きは明るいです。新しい半導体技術への期待が根拠の一つです。

 まずは3次元半導体実装技術です。簡単に言えば、チップを縦方向に何枚も積み重ねる技術です。微細加工技術に頼らず、高集積化を実現できる上に、配線を短くできるので消費電力を減らせます。そこでベースとなるのが、シリコン貫通電極、TSV(through silicon via)です。これは、積み重ねたチップを電極で貫通して電気的に接続する技術です。

 また、次世代パワーデバイスも注目を集めています。パワーデバイスとは、電力変換に用いられる半導体素子の総称です。現在、パワーデバイスの多くはシリコン製ですが、次世代では、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった新しい素材を用いて電力損失を大幅に抑えることを目指しています。

 すなわち、次世代パワーデバイスはこれからの省エネ社会に欠かせません。これらの先端技術を「先端で支える」半導体製造装置業界の先行きは明るいということです。

 最後に、未来の半導体についてお話しします。
 今年のノーベル物理学賞は、量子コンピューターの実現に道を開いたアロシュ氏とワインランド氏が受賞しました。

 簡単に言えば、現在のコンピューターでは1つの素子で一度に表わせるのはひと組の「0」か「1」のいずれかの状態です。ところが、量子の世界では、一度にたくさんの「0」と「1」の状態をとることができます。この性質を利用して、たくさんの情報を一度に並列して処理を進めることができます。一説では、現在のスーパーコンピューターが1万年かかる計算をたった1時間で行えるようになるとも言われています。

 もう一つ、粘菌を手本とした半導体の研究について紹介します。
 粘菌とは、アメーバのように移動する性質と、キノコのように胞子で増える性質を併せ持った生物です。この粘菌は、周囲に合わせてアメーバ状の体の形を様々に変えます。

 幾通りもの組み合わせから形を決める仕組みは、無駄な選択肢を次々と消していく計算に似ています。この原理を半導体の計算手法に取り入れることで、刻々と条件が変わる状況で臨機応変に瞬時に判断できる新しいコンピューターが可能になります。

 いずれの研究も、実用化にはまだまだ長い年月がかかると思いますが、我々半導体製造装置業界も、夢の実現を支えていきます。