卓話


在日外国人起業家から見た日本のビジネス環境

2021年11月10日(水)

(株)パシフィカ・キャピタル/フーディ(株)
代表取締役 セス・サルキン氏

 私はアメリカのシカゴ生まれで、最初に来日したのは1987年でした。当初はアメリカの経済誌ウォールストリートジャーナルの東京特派員でした。大学院を経て、自分で会社を立ち上げ、1995年から日本で不動産開発と運営を行ってきました。

 元々はショッピングセンターの開発・運営に特化していました。しかし、日本では流通制度があまりにも複雑で、海外と違ってショッピングセンターは小売業と不動産開発とが一体となっており、独立系のデベロッパーとしては展開が難しくショッピングセンター開発を諦め、今はホテルの開発・運営に特化しています。

 最初に開業したのは、2017年のモクシー東京錦糸町で、日本初のライフスタイルホテルです。1階ロビーに24時間食べたり飲んだり仕事したりできる面白いスペースを設けています。今、コワーキングオフィスが流行っていますが、その前に我々はこうしたスペースを作りました。モクシーは世界最大手のマリオットホテルチェーンの一つのブランドで、同社と提携して開発と運営をしています。
 次に開業したのは、ホリデイ&スイーツ新大阪です。モクシー東京錦糸町と同様にオフィスビルを購入して転換させました。新築に比べて早く、コストも安いのです。このホテルは大きめの客室で洗濯機を置いている部屋が多くあり、6ヶ月から1年の長期滞在ができます。
 次が大阪難波のフェアフィールド・バイ・マリオットで、去年7月の開業です。新築で300室、弊社で一番大きなホテルになります。

 最後は今年7月に開業したモクシー京都二条です。京都で初めてのライフスタイルホテルです。若者向けのように見えますが、60代50代のお客さんも多くいらっしゃいます。 パンデミック中にホテル3ヶ所を開業して苦労していますが、お陰様で緊急事態宣言の解除後は順調に稼働率が上がっています。

 2020年の4月、緊急事態宣言が出された後、私のホテルはかなり低迷しました。その頃私は在宅勤務をしながら、散歩を兼ねて外食をしていました。オーナーやシェフと情報交換すると、ファーストフードの場合はパンデミックからプラス影響を受けていますが、高級レストランや高級ホテルではそれは全くなく、店内にお客さんがいないし、テイクアウトやデリバリーも全くやっておらず、とても困っていました。

 そのため、去年の5月、FOOD-Eという会社を設立しました。海外には高級レストラン・ホテルを専門とするデリバリー会社がありますが、日本にはそうしたサービスがなく、私はホテル業界、飲食業界に人脈も多いため、自分で作りたいと思ったのです。6月にアプリ開発に着手し、3ヶ月でアプリを完成して、去年10月1日からデリバリーサービスを開業しました。

 現在、加盟店が60店舗以上になり、登録ユーザーは約7500人、平均注文単価は1万2500円と世界一です。年間流通金額が約2億6000万円と、順調に伸びています。

 他のデリバリーアプリに比べ加盟店手数料が安く、その代わりにユーザーに配送料を負担していただきます。各加盟店とは専属契約を締結しています。アルバイトのドライバーは使わず、全てプロドライバーで制服も着用し、バイクと車で食事を安定的に丁寧にお届けしています。お客様の割合は、日本人4分の3、外国人4分の1程度で、アプリとコールセンターは日本語と英語のバイリンガル対応です。

 加盟店は、東京一流の高級レストランとホテルばかりです。一番の売上は東京アメリカンクラブです。同クラブ100年の歴史の中で初めて会員以外から注文できるようになりました。2番目の売上はNOBU TOKYO、3番目がエリオ・ロカンダというイタリア料理店で、4番目が聘珍樓、5番目が赤坂鮨以とう、と様々な料理が人気です。

 緊急事態宣言の解除後は個人の注文頻度は若干下がっていますが、これから法人需要を開拓しようとしています。来年は、横浜と関西への進出、自社ドライバーの採用計画もあります。

 これから外国人起業家として、日本における課題を簡単に説明します。
 起業家と大手企業の一番大きな違いは資金調達です。大手企業にはメインバンクがついていますが、起業家にはなく、資金調達にいつも苦労しています。

 銀行はリスクを負いたがらないため大手企業に融資したがり、スタートアップには融資したくない。日本の投資家も同じです。メインバンクは融資する代わりに管理をうるさく指導します。起業家には、そうした指導はなくて助かりますが、自分で資金調達をしないといけません。

 次に、規制も多いのです。フードデリバリーの場合、あまり規制がないのではと思っていましたが、いろいろありました。

 例えば、我々は食事だけではなく、アルコールもデリバリーしています。今年3月末まではパンデミックの特別措置で、どのレストランも申請すれば期限付免許が出てアルコールの持ち帰り販売ができたのですが、4月以降はできなくなりました。店内でアルコール提供をする免許と一般酒類小売業免許は別のものなのです。

 まず申請手続きだけで数十万円かかります。また、アルコールは店内用とデリバリー用で別発注が求められ、在庫管理も別にしないといけません。小さいレストランでは別々に置くスペースがなく、せっかくセラーを持って色々なワインを置いていても、免許がなければデリバリーに提供できないのです。残念ながら弊社の加盟店で一般酒類小売業免許を持っているのは2、3店しかなく、皆さんに取得をお願いしていますが、なかなか難しい状況です。

 運送免許も大変です。我々が今、直接ドライバーを採用していないのは、免許が大きな障壁になっています。

 自転車に免許は要りませんし、バイク、軽自動車までは簡単です。でも、普通自動車でデリバリーをすると特別な免許が必要になってきます。車庫の確保、整備士も必要で、色々な基準があります。それらを我々のような小さい会社はいきなりできません。大手バイク便の会社と提携して、そうした免許を借りている訳です。

 日々、規制やルールに対応する工夫をしていますが、今後の成長を考えると、大きな資金調達なしにこうした障壁は乗り越えられません。そのため、ベンチャー・キャピタルで資金調達を行っている最中です。

 私が不動産開発ビジネスをスタートした当時、ノンリコースローン(特定の事業や資産から生じるキャッシュフローのみを返済原資とするローン)の制度がなかったため、自社での資金調達ができませんでした。最初の5年間は日本の大手企業と組むことでローンが組めました。やっと2000年頃にノンリコースローン制度ができ、初めて独自で開発できるようになりました。でも、ベンチャー企業の場合は実績がなければそれも難しく、融資は出ません。

 そのため、ベンチャー・キャピタルで調達しないといけないのですが、やはり最初は「実績を見せてください」。アメリカでは、ナプキンにビジネスプランを書いて見せると簡単にベンチャー・キャピタルから資金が出ると言われますが、日本の場合それは当然ありえません。

 私は不動産開発を長く行ってきましたが、今回のIT系のスタートアップは初めてです。そのため、ベンチャー・キャピタルの担当者もリスクを負いたがりません。

 当初は私の不動産ビジネスのお客様、私を信頼していただいている方々から資金を調達しました。今年3月に初めて外部で資金調達を行い、現在2回目の最中ですが、やはり大手ベンチャー・キャピタル・ファンドはリスクを嫌がります。ですから、日本は果たして本当に資本主義かと、私はとても疑問に思うのです。そもそもベンチャー・キャピタルはリスクを負って高いリターンを得るためにある仕組みなのに、日本の投資家は低リスクで高リターンを期待している。そんな甘いことはありません。でも、残念ながらそれが典型的な問題なのです。

 このFOOD-Eというビジネスは、ローンチから1年ちょっとですがとても成長しています。しかし、ベンチャー・キャピタルの担当者からやはり色々なことを指摘されます。一番大きいのは、担当者が稟議をどのように書くか、上司をどう説得するかです。アメリカの場合は逆に失敗しない人は評価されません。ベンチャーの世界では、まず失敗してからそれに学んでやっと成功できるのですが、日本の場合は一度失敗したら、もうアウトです。担当者は自分の首が飛ばないようにすることを考えています。

 日本のこれからの成長戦略を考えると、それでは非常に悪い。起業家をどんどん育成しないといけないのに、起業家の資金調達が大変です。アメリカはベンチャー・キャピタル・ファンドが主流ですが、日本の場合はコーポレート・ベンチャー・キャピタルが主流です。大手企業がお付き合いで出資するだけで、リスクではないのです。

 こうしたことが続くと、新規産業は出てこなくなります。
 例えば私の事業の場合はITではありますが、ドライバー、バイク、車、レストランといろいろなハードが必要です。今SaaS(Software as a Service)が流行っていて、人手もハードもあまり必要としないものを皆さんやりたがります。別に悪いことではありませんが、それだけでは経済は成り立たず、いろいろな業種が必要になります。

 食事をしなければ皆さん生きていけませんから、デリバリーは不可欠になります。食事の重要性もぜひ評価して頂けるようよろしくお願い致します。


     ※2021年11月10日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。