卓話


資源争奪戦と日本の課題

2010年7月14日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

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代表 柴田明夫氏

 世界の経済成長率の推移を10年平均成長率でみると,5%で成長していた時代と3%で成長していた時代の二つに分かれます。私は,1980年代以降の資源マーケットを見てきましたが,世界経済が好況か不況かの分岐点は大体3%成長しているか否かであったと思います。私は,世界経済は2000年代には,再び5%の成長軌道に戻ってくるという見方をしています。

 50年代〜60年代の経済を引っ張ったのは,日本と西ドイツです。1955年に「最早戦後ではない」と謳った経済白書が出ますが,その後、73年のオイルショックまでの日本経済は実質GDPで9.3%の成長を続けました。

 オイルショックが起こり,その成長が止まりますが,それまで60年代の世界の資源の需給は逼迫傾向にありました。しかし,価格が上がるところまでには至らず,価格が上がり始めたのは73年の第4次中東戦争を引き金としたオイルショックがきっかけでした。

 この時に起こった第1次石油ショックでは,原油価格が1バレル2ドルから11ドルまで急騰しました。80年には40ドルと20倍になり,日本は塗炭の苦しみを味わいました。

 多くの先進国では省エネ・省資源化を図り対応し,産業構造を高度化させていきましたが,一方では,世界的な資源の開発ブームが起こり,80年代になると資源価額は暴落傾向を辿ることになりました。

 このような安い資源時代が90年代まで続いた機会を利用して,中国などは工業化を遂げ猛烈な経済成長を果たしました。そこで資源の需要が一気に高まって,価額が押し上げられる構図になってきたわけです。

 2008年7月,原油価格が150ドルに迫る状態になりましたが,直後にリーマンショックが起こり資源価格が暴落します。原油も1バレル30ドル近くに急落します。

 ここで,リーマンショックの後の世界を三つの視点から述べてみたいと思います。

 一つめは,景気循環的な視点です。景気循環的な視点で世界や日本の経済を見ると,予想以上のペースで景気は回復してきています。2008年9月15日にリーマンショックが起こり,世界経済はまさに凍りつきました。しかし,そのわりには,昨年の4〜6月から世界経済は急速に回復に向かっています。百年に一度の危機だと言われたリーマンショックは,その危機感を各国政府が共有し,なりふり構わず,積極的な金融財政政策をとったが故に世界経済は幸いにも大恐慌に至らず,回復軌道に乗ってきたと見てよいと思います。

 景気の腰折れや2番底を懸念する向きやギリシャの財政問題に端を発した南ヨーロッパ諸国のソブリンリスク問題もありますが,これはリーマンショックとは少し性格が違うので,押さえ込んでいけるとみています。

 景気がよくなれば,中国などは,出口戦略で金融の引き締めの動きも出始めています。これは,景気がいいから金融を引き締める出口戦略を模索しているわけで,それが景気の腰折れ現象につながるとは思われません。

 二つめの視点は,パワーシフトすなわち、世界経済の構図が変わってきているという視点です。

 世界経済の成長を引っ張っているのは,中国,インドなどの新興大国です。1990年代までは,人口8億人弱の先進国が世界経済を牽引し,資源も国際マーケットで独占して使っていた時代でした。2000年代に入ると,いわゆるBRICs現象といわれますが、中国、インドなどの人口大国の工業化による持続的な成長が加わってきました。資源需要が新たに喚起され,需要が一気に増えて価格が大きく上昇しました。

 こうした需要面からの資源価格の押し上げる力は,少なくとも中国が成熟化し先進国の仲間入りするまでの過渡期の現象です。しかし,人口13億人の国の現象ですから,今後8%で成長しても15年間は継続するという時間軸での過渡期です。本来なら価格に対する国際的管理が必要でしょうが,パワーシフトが起こっている結果,世界はもはや,先進国だけで事を決める時代ではなくなっています。

 リーマンショックの後,景気が回復し,パワーシフトの傾向がますます強くなってきた結果,その影響は,資源の市場に先鋭的に現れてきていると,私は見ています。
 先鋭的に現れるというのは価格の高騰となって現れるという意味です。その価格も,昔のレベルから見ると一段と高い価格での適正価格を模索しようとする動きです。

 私は,このことを「均衡点価格の変化」と捉えています。これが三つめの視点です。

 その限りでは,今起こっていることは,70年代のオイルショックと同じことが起こっているわけですが,70年代との違いが二つあります。一つは資源の枯渇の問題,もう一つは地球温暖化の問題です。この二つの危機が不可逆的な流れで進んでいます。

 私の言う資源のキーワードは「濃縮」です。濃縮されて経済的な場所に大量にある良質の資源は,大体見つけ尽くされ、生産量の半分ぐらいは掘られています。一方、過渡期の需要は今後も拡大しますから,それに対応しようとすれば,濃縮されていない資源(例えばカナダのタールサンドなど)も回収して処理することが必要です。

 メキシコ湾の深海油田も経済的な所にある資源と言い難いものですが,こういうものも総動員しなければ,拡大する需要に追いつかないということです。開発に伴うエネルギーが必要になったり,温暖化を進めてしまう結果になったりするわけです。

 この一方、最近は太陽光発電や二次電池、電気自動車などへの投資も活発化しています。私は、これは,地下系資源に依っていた20世紀型成長から,これからは太陽系のエネルギーを取り入れた21世紀型の成長モデルを模索するような動きに入っていると思います。

 ただし,太陽エネルギーは,濃縮されて経済的な場所に大量にあるという意味で,資源という定義からは,いかにも不安定です。濃縮する技術も必要ですし,拡大する需要に対応するスマートグリッドの整備も必要です。

 地球の臨界点「ポイント・オブ・ノーリターン」は2030年といわれています。地下系から太陽系への移行を急がねばなりません。

 過去50年間の主な資源価格の推移を眺めてみると,石炭,鉄鉱石,原油,天然ゴムの価格推移は,いずれも同じような形状で推移しています。60年代までは低位安定,70年代に上昇し,均衡点価格の変化が見られます。その後,80年代〜90年代は安定しますが,2000年代に入って,いきなり上昇します。安い資源時代の終焉です。

 価格は,あらゆる情報が圧縮されて現れたものです。それが,どの資源も同じような形状で変化しているのは,その背後にある産業経済の構造が変わったことを意味します。その原因はパワーシフトと新興国の工業化です。

 その代表は中国の経済成長です。中国は78年に市場経済の改革開放を実施しました。それからの30年間の平均成長率は9.9%です。78年には2千億ドルだった経済規模は,2000年には1兆ドルになっています。しかし,30年続いた大量投入,大量生産,大量消費という粗放型の経済成長には限界があります。間もなく日本を抜く勢いですが,中国の経済を人口で割るとそれほどではありません。一人あたりGDPは2008年で3千ドル台です。先進国の目安である1万ドルを目指すにしても4倍の拡大が必要です。最大の問題は,石炭も鉄鋼も世界的な資源国ですが,一人当たりに割ると成長に必要な資源量が足りないということです。そこで中国は2008年に国家資源戦略として,供給量の確保・備蓄の拡充・省エネ,という三つの柱を立てました。

 供給面では、国内の開発はもとより海外資源の権益を確保する。国内で足りない資源については戦略備蓄を行い、足りているものについては産地備蓄を行う。話題のレアメタルなどは、輸出枠を半減させています。省エネについては,産業構造を高度化させる。エネルギー消費量の高い産業と環境負荷の高い産業,そして資源消費量の高い産業「二高一資」の高度化です。さらに,エネルギー排出を抑制する計画です。2020年までに2005年比でCO2の排出量を40〜50%削減する計画を目標にしています。

 日本の課題は何か。我々は何処に向かうべきか。資源価格が高騰しているのは,一時的現象あるいはマネーゲームと片付けられる話ではなく,均衡点価格の変化ととらえるべきです。それは,資源の枯渇と温暖化が進んでいることに対する対策を早く立てなさいというシグナルをマーケットが発していると見ています。価格が上がれば,太陽電池や2次電池などの市場が活発になります。この動きは,地下系資源で成長してきた20世紀型の成長モデルの限界が見え,太陽系資源を取り入れた成長市場を模索する動きに入ったということです。時間はあまりありません。2030年が臨界とも言われています。資源価格の高騰は移行をスムースにするためのコストであると見ています。太陽系を取り入れた新しい成長モデルを模索する日本の企業にとっても大きなチャンスが到来していると思います。