卓話


監査業界とディスクロージャー制度の動向について

2017年3月1日(水)

有限責任あずさ監査法人
理事長 酒井弘行君


 『会計監査』とは、企業が作成した財務諸表に対して独立した第三者である公認会計士が適正であることを保証する業務となり、企業が開示する財務情報の信頼性を担保し、資本市場の健全な発展に寄与することを目的としています。

 歴史を紐解きますと、日本では英国に遅れること約100年後、今から70年ほど前に公認会計士法が制定され会計監査が行われるようになりましたが、企業の大規模化・グローバル化の進展と相まって、監査する監査法人側も大規模化・グローバル化してきた歴史を辿っており、現在では、私の属するあずさ監査法人のほか、新日本監査法人、監査法人トーマツ、あらた監査法人の4つに集約が進み、この4法人で国内上場企業の売上高の実に93%を占める企業の監査を行っています。

 この4法人は世界規模ではBIG 4と呼ばれる4つのアカウンティングファーム、すなわちPwC、DT、EY及びKPMGのいずれかに加入しています。私が所属しているあずさ監査法人はKPMGに加盟しており、BIG 4の中では最も小さな規模のファームですが、それでも世界150か国以上にメンバーファームを展開し、職員数が20万人、収入が約3兆円程度の規模となっています。

 さて、皆様ご案内のとおり、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードが創設され、これら2つのコードにより、企業の持続的な成長を促し、企業と機関投資家との建設的な対話を通じた中長期的な企業価値の向上を実現するためのインベストメント・チェーンの土台が形成されました。

 これにより企業と投資家との対話が進展しているとの一定の実感も出てきてはいるものの、日本企業の持続的な企業価値向上に確信が持てない海外機関投資家もいまだ多いのが現状のようです。

 この要因の一つとして、企業と投資家との「建設的な対話」を実現させる環境が十分に整っていないことが指摘されており、現状の諸制度や実務を横断的に見直そうとする動きがあります。

 1つは株主総会プロセスです。
 海外機関投資家が指摘する問題点は、株主総会の集中がもたらす弊害です。
諸外国に比べて、日本では株主総会が6月末付近の特定の時期に集中しており、とりわけ海外機関投資家と企業との意思疎通の期間が十分に確保できていないことが挙げられます。経産省が行った調査研究によれば、多くの場合、海外機関投資家の実質的な議案検討期間は1〜3営業日しか確保されていないようです。

 もう1つは開示制度です。
 我が国には、会社法開示書類、有価証券報告書、決算短信の3つの開示制度が併存しており、それぞれの開示内容は、似通った部分も多いですが、根拠法令、提出様式が異なり、同一の項目であっても開示の範囲や定義・概念等が少しずつ異なっています。この微妙な違いのために、作成者にとって事務負担が大きくなっているのが現状です。

 こうした諸問題を踏まえ、企業と投資家との「建設的な対話」の促進に向けた株主総会プロセスや開示内容の整理・統合、開示の在り方に関する多面的な検討・見直しが進んでいくことになるでしょう。

 また四半期開示制度や内部統制報告制度についても、企業負担とその効果の観点、あるいは、コーポレートガバナンス・コードの浸透状況や諸外国の動向等を踏まえて改めてその在り方を多面的に議論し、必要があれば何らかの制度の見直しを検討しても良い時期になったのではないかと考えます。

 最後に監査法人のガバナンスについて触れたいと思います。
 会計監査は、資本市場における極めて重要なインフラですが、最近の会計不祥事を契機として、あらためて会計監査の信頼性が問われており、現在、監査法人のガバナンス・コードの創設に関する検討が行われているところです。

 私ども監査法人は、常に社会インフラとしての役割の重要性を認識し、資本市場の成長と公正な社会の実現に貢献するために、今後ともガバナンス強化や監査品質向上に向けた様々な取組みを行ってまいります。