卓話


イニシエーションスピーチ

5月25日の例会の卓話です。

廣瀬恭久君 
相沢英之君 

第4055回例会

予算編成の科学的手法

(財)日本システム開発研究所
理事長 相沢英之君


 私の職業分類はシンクタンクと言われましたが、これは、私が財団法人日本システム開発研究所の理事長をしている故と説明がありました。

 当研究所は、昭和44年に設立され、現在100名程度の所員で主として中央、地方の官庁や関係機関の委託を受けて調査研究を行っております。 

 ところで、昭和20年代米国においては予算編成を政治に流されず、科学的、合理的に行う目的で、費用対効果のコスト・アンド・ベネフィットの関係を明らかにしつついわゆる科学的財務管理を推進する運動がありました。それはPPBS(Planning Programming Budgeting System の略称)と呼ばれました。

 われわれもこのPPBSを予算編成事務に導入したらいいではないか、ということになって、お手盛りで昭和44年度予算に「科学的財務管理方法導入準備調達費」として一億円を新規計上したのであります。当時、私は担当の主計局の次長でありました。

 国の予算の編成は、基本的な方針は当然のこととして、事業の細かい部分、例えば工事の箇所付けなどについても、いろいろな人から、さまざまな注文がついてくる、ごもっともな要求もあれば、ごもっともでない横車もある、それをうまく捌かなければならないが、そうそう相手の言うことを聞くわけにはゆかぬ、と言って無下に刎ねつけても障りがある、といった場面で、何が相手を説得するに足る客観的な理由があればよい。そこにPPBSの手法が適用できれば、無用な論争を抑えることができるのではないか。といった差し迫った理由もあって、わが国の予算編成にもこれを活用してみようではないか、ということになりました。

 当時、このような計画の比較検討の対象となって、主計局のわれわれも最大の関心を寄せていたのが、本四架橋のルート選定の問題でありました。

 昭和40年前後には本四架橋は五ルートが俎上に上っていましたが、建設省は昭和43年2月には調査結果に基づき、候補ルートをA、D、Eの三つに絞ることになりました。

 さて、それからが大変でした。何せ、瀬戸内海を挟んで、三木武夫、原健三郎、池田勇人、大平正芳、宮沢喜一などというお偉方がぞろっと構えているので、三ルートに絞ったとはいえ、そのうちどれから着工するかをめぐって熾烈な争いがありました。そこで、このPPBSの手法のようということになりました。

 経済企画庁が中心となって費用対効果について丹念に検討した結果、三ルートについて優先順位を決めることができましたが、これを発表できない状態となっていました。

 そこで、木村俊夫経済企画庁長官が景気浮揚策として本四連絡橋三ルートの同時着工を決めることになりました。

 折角の科学的手法も台なしの論になりましたが、転んでもただでは起きないのが役所であり、官僚であって、表面では三ルート同時着工は致し方ないとしても、完成には差をつけるべく、三ルートについては、費用対効果に基づく評価順位に従って工事を進めて行く算段をひそかにつけていたのであります。

 この辺で、かい摘んで申し上げますと、予算編成の科学的手法というものは、現実の予算均衡の過程において、なかなかそのまま通じ難いところがありますが、やはり国民の大切な税金をお預かりしている側としては、いやが上にも予算の効率的な運用を考えなければならないので、これからも、PPBSの手法は大事にして行かなければならないと思っています。

 私が30年理事長をしている日本システム開発研究所も、煎じ詰めれば、中央、地方の予算の執行に際して、いかに効率的に目標を達成するかに努力を集中している点ではPPBSの流れを汲むものと考えられますので、今後とも努力を続けたいと考えております。

ワインについて

エノテカ
代表取締役 廣瀬恭久君

 本日出席されている方々の中には私が生まれる以前からワインを飲んでいらっしゃる先輩の方々、また私よりも、もっとワインの知識の豊富な方々もいらっしゃると思いますが、ワインを職業としているということで、私の話をお聞きいただけれえばと思います。

 よくフランス人は「ワインはアルコールではない。ワインはワインだ」と云っていますが、ワインは確かに色々な飲み物の中で多くの特徴を持っています。ワインはカウンターで演歌を聞きながらじっくり一人で飲むというよりも、ワインの周りには人が集い、笑いや愛があります。また、ヴィンテージがあるというのも大きな特徴です。自分や友人、家族の生れ年のワインを飲みながらその頃の思い出や出来事に話が盛り上がります。そして、ワインは世界中の殆どの国で生産されています。音楽によって言葉が通じなくても世界中の人々とコミュニケーションが出来る様に、“どの国のワインが好きだ”とか、“あなたの国のワインは飲んだことがある”とかで色々な国の方々と交流することが出来ます。また、日本にいながら、ワイン談義によって世界中を旅行することが出来ます。

 この様に特徴をもったワインですが、まだまだ日本では充分に普及しているとは云えません。特によく耳にするのは、「ヨーロッパの人々は子供の頃からワインに親しんでいるが、我々の様に大人になってから飲み始めてもなかなか味がわからない」ということです。しかし、私は決してその様に思いません。我々、日本人はかなり味覚に対して鋭いものをもっていると思います。日本の食生活そのものが、大変繊細で季節感があり、デリケートなものです。ワインを飲み出すのが遅いとはいえ、多くの人々がワインの良さを発見されていると思いますし、欧米の人々に負けないぐらいワインを理解されると思います。

 私は職業柄、多くのワイン会社のオーナーとか、責任者と食事をするチャンスがあります。特にフランスのボルドーの格付シャトーの人々とは殆どテーブルを共にしてきました。我々はよくブラインド(銘柄及びヴィンテージを隠すこと)でワインを飲みます。その時、よくある事なのですが世界的に有名なシャトーのオーナーで、しかも30年以上も経営している人が自分のシャトーのワインが分からないことがあるのです。ですから、日本の方々も最初からGIVE UPしないで、どんどんワインにチャレンジして下さい。

 余談ですが、そのオーナーに皆で「大丈夫ですか?」と冷やかすと、「たまにはこんな事もある。ところで君達は目かくしをして数人の女性の手をさわって、どの人が君達の奥さんか当然分かるだろうね!」私は当然、“沈黙”です。

 さて、ワイン業界で最も大きな地位を占めるフランスのボルドー・ワインのビジネスについて少しお話を致します。

 ボルドーと云えば、シャトー・マルゴーやシャトー・ラトゥールといった一級シャトーの名を思い出されると思います。実は殆どのシャトーが各々の国に代理店を持っていないのです。つまり、買おうと思えば誰でも買えるのです。しかしワインは農業です。生産には限りがあり、有名なシャトーなどは完全な売り手市場で、過去の実績により各々の輸入業者にアロケーションが与えられます。また、造り手と輸入業者の間にネゴシアンという仲介業者が存在します。我々は色々なコミュニケーションを直接シャトーの人々と行うこともありますが、ビジネスは必ずネゴシアンを通すという仕組みです。このIT時代にあって200年近くこの古いシステムが非常に効率的に機能しています。

 では、どうしたら確実に数量をおさえ、また安定した価格で購入することができるか?これはプリムールというボルドーの売買システムを使うことです。プリムールの商売とは、ワインが樽に入っている状態で売買することです。例えば、今は2005年ですが、2004年のワインは去年の秋、収穫が終り今は樽の中で熟成されています。ボトルとして世に出されるのは、2006年の夏から冬にかけてです。そして今、まさにプリムールの売買がスタートします。我々はシャトーから一番最初に出される価格で2004年の売買を行います。そして、原則としてシャトーは今後この価格より安くは出しません。ですから、プリムールが一番安く、確実に入手出来る手段なのです。数量は限りがあり、入手出来る数量は前年の実績をベースに決定されます。実際はもっと複雑なのですが、また何かの機会に話をさせて頂ければと思います。

 本日は私の話を聞いて頂きありがとうございました。次はワインを飲みながら諸先輩の人生や御仕事の話を聞かせて頂きたいと思います。ワインは楽しむもの、テーブルでは常時人々が主人公でワインは“単なる脇役”です。