卓話


よきモノづくりと,文化投資による市場活性化

2015年6月10日(水)

花王
顧問 尾元規君


 私は、花王株式会社において四十年余りにわたってマーケティングや販売、そして経営の仕事に携わってきました。昨年花王を離れましてからは、縁あって新国立劇場の理事長および企業メセナ協議会の理事長を務めております。

 私が長く携わってまいりましたトイレタリー・化粧品の業界は、消費者の日常生活に密着した商品を扱うだけに、お客さまの暮らしの変化とそれに伴う商品に対する価値観の変化を敏感に捉えることが極めて重要な仕事となっております。その上で、“よきモノづくり”、すなわちお客さまの“心豊かな暮らし”づくりにお役に立てる商品を創造し、提供することが最大の使命と考えてまいりました。

 お客さまが商品に求める価値は、「機能価値」、「情緒価値」、「社会価値」の3つです。中でも昨今非常に重要になってきているのが“社会価値”です。この社会価値を持つ商品とは、たとえば地球温暖化などの環境問題や、高齢化に伴う健康問題など、私たちを取り巻く様々な社会課題の解決にいささかなりとも貢献できるような商品を指します。環境問題への対応の具体的な例をあげれば、節水・節電型の新しい衣料用液体洗剤が開発・発売され、今では洗剤分野の主流となっております。

 また高齢化社会に対しても、業界をあげて努力が重ねられています。シニアの方々の意識調査をしてみますと、「年齢だけで、高齢者とひと括りにされたくない」といったアクティブな意識が非常に高いことがうかがえます。しかし一方では、高齢者の方々は「安全・安心」な商品、そして「分かりやすく・選びやすい」商品へのニーズが極めて高くなっているのも事実です。こうしたことへの対応としては、たとえば最近の衣料用柔軟剤では誤使用を防ぐためにパッケージに大きく「柔軟剤」と表示したり、テレビコマーシャルでも字幕スーパーを入れて“分かりやすさ、選びやすさ”に注力しています。

 さて、ここで私が現在考えております「日本経済の活性化」ということについて、一言述べさせていただきます。

 日本市場においては長く続いてきたデフレ経済から脱却するために、二年余り前から、いわゆるアベノミクスが発動され、一定の成果をあげつつある状況となっております。しかし、私は一層の市場活性化を図るためには、ここで大胆な“発想の転換”が必要であると考えております。

 その具体的な内容を、企業メセナ協議会の活動に即して申しあげれば、「文化は資本だ」という考え方を大切にし、従来の“与える”という考え方から“投資する”という発想へ極めて大きなパラダイムシフトすべき時を迎えているのです。

 「文化とは、市場を活性化する資本そのものである」と考えに立ち、芸術文化活動を支援し活発化することで人々の感性、感受性を豊かにすることによって、人々の商品やサービスに対する情緒的なニーズは一層高いものとなっていき、それに応えるための企業活動も一層の高付加価値化が求められることとなります。こうしたサイクルをしっかりと回していくことで、日本市場のさらなる活性化を実現できると、私は確信しております。

 これを達成するためには、まず企業側が“文化経営”を行なうという高い志を持つこと、そして文化活動をしっかりと評価できるメジャーメント(たとえば“文化会計”の仕組み)を持つことが急務であると考えております。

 私は今後、以上のような考え方を念頭において、皆さま方と共に、“より心豊かな社会づくり”にいささかなりとも貢献できるよう頑張ってまいりたいと思っております。