卓話


イニシエーションスピーチ

2006年3月1日(水)の例会の卓話です。

佐久間 国雄君 西川 章君 

第4091回例会
 
印刷インキの話

東洋インキ製造株式会社 
代表取締役社長 佐久間 国雄 君
      
印刷インキ製造業というと、皆様にはあまり馴染みが無いと思いますが、印刷インキは私達の日常生活のあらゆるシーンに浸透しており、新聞、雑誌、各種チラシ、カタログ、食品包装材、住宅建装材など広範囲に渡り使用されています。

 日本全国で印刷インキメーカーは約40社あり、その殆どが明治時代の日清・日露両戦争の頃に成立し、約110年の歴史をもつ産業といえます。時代と共に様々な社会環境・生活環境の変化がある中で、印刷インキは絶え間無く社会から必要とされてきました。特に太平洋戦争後、先端技術の導入により用途が飛躍的に拡大し、あらゆる生活シーンに見られる様になりました。現代社会では生活文化の発展を支える産業のひとつです。

 インキと言う言葉は英語の「ink」に由来し、正式な発音はインクです。その「ink」は仏語の「enque」(アンク)に由来しており、この語も元々はラテン語からの由来だそうです。つまり中世ヨーロッパ時代のペン用インクが語源であり、どうもグーテンベルクの印刷術発明(1440年)より古いようです。

 現在、世界の印刷インキビジネスは全体で約2兆円/年規模で、欧米と日本のメーカー10数社がメインプレイヤーです。世界の印刷需要は、2003年時点で約74兆円、2010年には約88兆円になると予測されています。地域別印刷物需要シェアは、アジア37%(日本は10%)、北米33%、中欧23%、中南米3%、東欧2%、中東アフリカ2%となっており、この先2010年にはBRICs市場の成長により、アジア40%、南米4%、東欧3%とシェアを伸ばし、北米がその分シェアを落とす予測となっています。印刷インキメーカー各社はこれらの需要の変化に対応すべく、その世界戦略を再構築している最中です。

 日本の印刷需要は、1991年の8.9兆円/年をピークに毎年下降気味で、最近では約7兆円といわれます。しかし、印刷需要には単に印刷物だけでなく、印刷に付随する製版などの前工程や後加工の生産高も含まれます。デジタル技術の導入による、それらの工程の大
幅な合理化がもたらした需要減を差し引くと、純粋な印刷需要はむしろ若干の伸びを維持しているかと推測されます。

 技術的な面からみますと、従来は美しい色彩の表現や、紙をはじめ様々な素材への密着性などが重要視されましたが、昨今の技術開発では以下の2テーマが欠くことの出来ない重要なものとなっています。第1は「環境対応」です。客観的に見ても、この点に関して日本は世界の先端レベルであります。これは日本を代表するモノづくりの会社が世界トップレベルの環境調和型製品を世界中に送り出していることに連動し、それに付随する印刷物やパッケージに使用される印刷インキも同様の性能が要求されることに起因しています。

 第2のテーマはインキの色材技術活用での「機能性製品素材の開発」です。例えば液晶をはじめとするFPDの発色素材への応用、ICタグへの応用、屋外看板やバスラッピング(バスの車体広告)に使用されるインキジェット素材、天然物由来の安全な可食インキなどがあげられます。実はこの点に関しても日本は世界の先端レベルを走っています。

 以上のように、印刷インキやその派生製品は生活者の皆様に向け、「各種情報伝達の役割」、商品パッケージや環境対応での「安心・安全性の提供」、機能性素材活用による「快適な生活シーンの提供」など、皆様の身近なところでお役に立っております。今後も更なる快適さに貢献すべく印刷インキという素材を原点に、技術改良・開発を続けて参りますので、ご期待、ご支援いただければ幸いです。

文明のはじまりは銅との出会いにあった

三菱マテリアル株式会社 取締役相談役  
西 川 章 君

 人類学の教えるところによると、400万年前から100万年前の間に人類の祖先―原人と目されるピテカントロプス等が現れたとされ、現在とほぼ同じ身体的特徴を備えた人類―ホモサピエンスが現れたのは、100万年に及んだ氷河期を経た後の今から5万年前である。人類が身体的に現在の基質を備えて以来、今日の叡智に到達するまでに更に5万年を要している。

 長期間の狩猟・採取の時代を経て、人類は火の使用を習得し、それが農耕生活の拡大、貯蔵を促し、土器などの道具の製作へと進展する。

 火の使用に見られるように、我々の祖先は、幾つかの重要な節目を経、その節目を経たことにより彼らの生活、文明は画期的な飛躍を見せたことが解っている。石器時代に始まり、青銅器期時代、鉄器時代、産業革命を経て現代に至るまで、その都度新しい材料、道具がこれら節目の主役を為してきた。

 われわれの祖先が初めて手にした金属は銅であった。紀元前8千年頃、天然に遊離した自然銅を発見して利用する事を覚えた。

 人類と金属の出会いである。石器に較べると硬さにおいて劣るものの、加工性に格段と優れており、外観の美しさから,初期には槌などの簡単な道具或いは装飾品などに利用されていた。

 その後、紀元前6千年に至って、酸化鉱を還元して金属を得る技術に到達した。それまでに発達していた高温による土器の焼成技術が基礎にあったことは、ルツボの焼成温度の約700−800度と銅の酸化鉱石の還元温度がほぼ同じであることから理解される。これが冶金技術の誕生であり、金属時代の輝かしい始まりである。

 しかしながら、本格的に道具として広く使用されるためには、銅と錫の合金―青銅の出現が必要であった。酸化銅鉱石の付近には錫の鉱石がたいてい存在するところから、両者が偶然混じって製錬されたと思われる。銅より硬く、はるかに道具の材料として優れているこの銅と錫の合金を得て、人類の文明は飛躍的に発展する。青銅器時代の始まりである。

 銅から青銅にいたるまでに人類は1千年以上を必要としたのである。今のトルコ、イランを中心としたメソポタミア地方で始まった青銅の生産と利用は次第に東の中国、西のエーゲ海域へと伝わり、地中海領域ではエジプトを中心にスカンジナビア、イギリス地方にまで急速に広がった。

 紀元前3800年頃シナイ半島で銅の鉱山が開かれたことが文書に残っている。鉱山事業の始まりである。その後長期間キプロス島が銅生産の中心地になり、エジプト人、フェニキア人、アッシリア人、ローマ人などと取引され地中海領域に広く運ばれ利用されるようになった。元素記号のCuはキプロスから転化したラテン語の頭文字に由来している。

 人類の文明は金属との出会いにより飛躍的に発展した。4万年に及ぶ狩猟採取の時代から僅か1万年弱で今日の叡智へと加速されたのである。後に続く鉄器時代、産業革命そして現在の情報、ソフト時代を導いたのが銅との出会いであった。銅及び銅の合金は、従来の電気エネルギー、情報の伝達分野などに加え、携帯電話の小型化、高機能化を可能にしている多層回路の形成などなど、情報通信分野での基幹材料としての重要性を益々増して来ている。金や銀に加えて銅の製錬時に副生される希少金属も同様である。銅という材料は微細化、合金化、複合化技術に支えられてナノの技術、製品の分野で更に重要性を高めて行くであろう。

これまでの人類の文化発展に及ぼした画期的な役割と今後を思う時、銅の事業に携わる者として、大きな使命感と誇りを感じざるを得ない。