卓話


緊迫する北朝鮮と文在寅政権

2018年3月14日(水)

外交評論家
武藤正敏氏


 南北首脳会談、米朝首脳会談をどうとらえるか。結論から申し上げるなら、北朝鮮の核ミサイル放棄の意思は疑わしいと考えています。北朝鮮の融和姿勢は、核ミサイル開発の戦略が変わったのではなく、戦術が変わっただけ。北朝鮮への圧力が効いてきたためだと思っています。南北対話、米朝対話が行われることはよいことですが、韓国の中央日報の社説にも書いてあるように、総論はけっこうですが、各論は慎重にすべき。北朝鮮と対話したいという文在寅政権の前のめり政策が、北朝鮮を蘇らせることになってはいけません。

 アメリカが表舞台に出て北朝鮮と対話をするのがベターですが、トランプ大統領が中間選挙に勝つための実績づくりとして対話をするのだとすれば、それは非常にまずいと思います。ポンペイオ新国務長官はこれまで、北朝鮮に非常に厳しい態度を示してきました。私は、ポンペイオ新長官が、北朝鮮と事前に話を詰めて、言うべきことをきちっと言うことを期待しています。

 先般、韓国の特使5人が北朝鮮に行き、南北対話に合意しました。そのときの金恩正朝鮮労働党委員長の顔は、核ミサイルの実験に成功したときと同じような笑顔でした。その雰囲気から、自分たちが目的としていたものを得たと感じました。その合意内容について、説明させていただきます。

 4月末に、板門店の韓国側施設において南北首脳会談を開催する。
 過去の南北首脳会談は平壌で行われましたから、板門店、それも韓国側の領域に入るというのは前代未聞のこと。この点は非常にいいことだと思います。
 ∨鳴鮮は、朝鮮半島の非核化に対する意思を明確にする。
 これは朝鮮半島の非核化であり、これまで北朝鮮が主張してきたことと同じです。つまり、アメリカも非核化すべきということ。これは、朝鮮半島への核の持ち込みだけでなく、核を搭載する戦略爆撃機や原子力空母、原子力潜水艦のことも指していると思います。
 K鳴鮮側は、体制の安全が保証されるのであれば、核を保有する理由がない。
 これは、在韓米軍の撤退と米韓軍事同盟の解消を意味しています。そうなれば核を保有する理由がないと言ってはいますが、核を放棄するとは言っていません。
 と鶻鵬縮簑蠅龍┻弔筺∧督関係正常化に向け、米国と虚心坦懐に対話する用意がある。
 北朝鮮はこれまで、ずっとアメリカとの対話を望んでいました。しかし、アメリカが相手にしてくれないので、韓国に融和姿勢を示し対話を呼びかけました。本音は、アメリカと協議し、在韓米軍の撤退や米韓軍事同盟の解消について話したいということだと思います。
 ヂ佻辰続いている間、新たな核実験や弾道ミサイルの発射は再開しない。
 寧辺では煙が上がり、その近くを流れる川の温度が上がっています。実験はしないといっても、核ミサイルの開発は続いている状況です。
 Τ吠軸錣呂發舛蹐鵝通常兵器も韓国に対して使用しないことを確約する。
 閣僚会議で韓国が北朝鮮に対して非核化を求めたとき、北朝鮮は、核ミサイルは同胞の韓国ではなくアメリカに向けたものだと言いました。本来であれば、韓国の代表はその場で、アメリカは同盟国であり、そのような発言は受け入れられない、そもそも核の保有を認めることはできないと言うべきです。ところが、北朝鮮にオリンピックに出場してほしい韓国は、事実上、黙認してしまったのです。
 米韓合同演習については、4月から例年通り実施することに関しては理解する。
 これは新しい動きだと思います。合同演習で原子力空母や原子力潜水艦、戦略爆撃機が韓国にくれば、いつ攻撃されてもおかしくないということを北朝鮮は恐れていました。この合意は、韓国が盾になれば合同演習をしてもいいということだと思います。

 今回の合意は、北朝鮮ペースでなされたことが明らかです。交渉はわずか1時間。映像を見ると金恩正が一人で話し、韓国側はメモをとっていただけ。これで交渉といえるでしょうか。金恩正は喜色満面。代表団を車寄せまで見送って握手までしています。北朝鮮にとっていかに交渉がうまくいったかを表しています。それゆえ、核ミサイルを放棄する意志があるのか、私は疑わしいと思っています。核実験をやめるというだけでは不十分、核ミサイルを放棄すると言ってもらわなければ意味がありません。

 今回、北朝鮮が対談を提案した背景には、アメリカの圧力があります。北京では戦争が起きるかもしれないという雰囲気が高まり、中国は吉林省のあたりに難民キャンプをつくっていました。アメリカも戦略爆撃機を朝鮮半島に飛ばしていました。アメリカがいつ攻撃してきてもおかしくないという雰囲気が、北朝鮮にはあったのだと思います。昨年11月28日にアメリカ全土を射程におさめるICBMの発射に成功したことで、これを盾に交渉しようということだと思います。

 ほかに、2つの理由が考えられます。一つは、金恩正が父である金正日から受け継いだ秘密資金の枯渇です。核ミサイル実験、スキー場や高層マンションの建設で、資金を使い果たしたのではないかと言われています。加えて、今年は建国70周年。金日成の誕生日などの記念日に贈り物をすることで軍に忠誠を誓わせるのですが、秘密資金が枯渇するとそれも難しくなってきます。最近は闇市場が盛んになり、北朝鮮の若者の中には、朝鮮労働党に入り軍人になるよりも、闇市場で金儲けをしたほうがいいという人も増え、中央に対する忠誠心は下がっています。資金が枯渇すると、金恩正への忠誠を誓わせることが難しくなるのです。もう一つの理由は経済制裁です。現在、輸出はほぼストップ。原油は昨年までと同じく年間400万バレル輸入できますが、石油精製品は9割方ストップ。北朝鮮経済の生命線はほぼ絶たれたに等しい状況にあり、このままでは立ち行かないと考えたのだと思います。

 次に、文在寅政権の親北姿勢について。政権の主要ポスト67のうち、北朝鮮と親しいといわれる運動圏出身者が32のポストに就いています。また、政策決定のほとんどを行う青瓦台では、26ある主要ポストのうち、10が運動圏出身者のようであります。慰安婦問題に関連する女性家族相は慰安婦団体の関係者。そういう人たちが韓国の政権中枢に就いているわけです。閣僚会議や特使団の派遣についても、トランプ大統領と事前に打ち合わせ、北朝鮮に圧力をかけ続けることで合意した上で実施しているはずですが、実際は北朝鮮の主張をメモし、それが合意だと言っている印象を受けます。朝鮮半島で戦闘行為を起こさないためには対話が大事なのはもちろんですが、どういう条件で対話をするかが非常に重要です。しかし、それを無視して、北朝鮮の言いなりになっているということです。

 韓国特使団の実質的な交渉役は、徐薫(ソ・フン)さんという韓国国家情報院(KCIA)のトップです。過去2回の南北首脳会談も、徐薫さんがすべてを取り仕切っていました。徐薫さんが仕切ったこれまでの南北首脳会談では、相当の金が北朝鮮に流れています。今度の会談でも同じことが起きる可能性は大いにあると思います。対話することはよいことですが、それによって、ここまで追い詰めた北朝鮮を助けることになっては困ります。トランプ大統領はこうした状況のなかで対話をするわけですが、中間選挙に向けた実績作りのための対話であれば危ういと懸念しています。

 今後の留意点は、非核化をいかに検証可能な方法で行うか。北朝鮮はこれまで約束を守ったことがありません。サリンを実の兄に使い、武器をあちこちに輸出して資金を稼ぐ国が核ミサイルを持てば、日本にとっても危うい状況になります。それを防ぐために大事なのは、北朝鮮の意図をいかに正確に把握するかということ。私は90年代のはじめに、担当課長として日朝国交正常化交渉を取り仕切ったことがありますが、北朝鮮は毎回やり方を変えてきます。「じっくり話し合って日朝関係を進めましょう」と言ったかと思えば、あるときは「日本は日朝関係を進める意思がない」と交渉内容を記者団に暴露したり、あるときは「話し合ってもしょうがない」と席を立ってしまったり。しかし、30分も話せば意図は伝わってきます。意図をよく把握して対話をしてほしいと思います。米朝対談では、ICBM開発凍結の見返りに核の容認を言い出すこともあり得ますが、日本にとっては核放棄が絶対的な必要条件です。

 最後に、日韓関係について一言。韓国人は日本が好きです。去年の韓国人観光客は前年より40%も増えています。ただ、政治と歴史については客観的に見られないところがあります。文在寅大統領は歴史問題と経済・安保を分けるツートラック政策を打ち出していますが、歴史問題ではとんでもないことを言っています。文政権では日韓関係はうまくいかないと思いますが、大統領が代わればがらりと変わるのが日韓関係です。短期的に難しくなっても、中長期的にはよくなっているのが現実です。あまりキリキリしないで、鷹揚にかまえていることが大事だと思います。