卓話


CO2を軽減する「ニュークリーン・ディーゼル」

2007年8月29日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

ダイムラー・クライスラー日本(株)
代表取締役社長&CEO Mr.Hans Tempel
技術コンプライアンス部部長 Dr.Friedemann Bruehl

 本日は排気ゼロの車が実現するまでの有力な技術、二酸化炭素を大幅に軽減する能力があり、地球温暖化に貢献するディーゼルエンジンの現状についてお話させていただきます。

概要
 ヨーロッパでは環境問題に関する意識が年々高まり、段階的に厳しい排出ガス規制を導入することが合意されています。

 これに伴い、ヨーロッパではCO2の削減に成功しており、世界の自動車市場と比較しますと、ディーゼルのシェアと比例していることがわかります。昨年ヨーロッパ乗用車新車登録におけるディーゼル乗用車のシェアは50%を越え、ドイツ自動車業界として1995年より10年で12.4%CO2の削減に貢献しております。

 この成果は主にディーゼル乗用車の燃費改善によって得られました。各自動車メーカーは規制適合への動きと並行して自主的に燃費の改善に努め、100km走行するために必要な燃料は15年前に比べ、平均2リッターも少なくなっているのです。

 二酸化炭素のみならず、1990年以降ディーゼル乗用車の排出ガス中の有害物質は激減し、2005年施行のユーロ4の導入後、15年前に比べて平均95%削減されました。将来の排出ガス規制、ユーロ5とユーロ6の導入により今後、排出ガス中の有害物質はさらに削減されていきます。

歴史
 ディーゼルエンジンの歴史はルドルフ・ディーゼルの1897年の発明に始まります。ディーゼルエンジンは当初2つの目的で開発されました。ひとつは優れたエネルギー効率という経済的効果、もうひとつは優れた耐久性と信頼性といった質的効果です。メルセデス・ベンツが1936年に乗用車に初めてディーゼルエンジンを搭載することになった理由は、このディーゼル開発の目的と密接に関わりがあります。

 現代のディーゼルエンジンはどうでしょう。旧来のディーゼルのメリットはそのままに直噴ディーゼルターボエンジンにより高出力化を実現、スポーティな走りまで楽しめるようになりました。この現代にルドルフ・ディーゼルが存命でしたら、その変化に驚いているに違いありません。

昨今のディーゼル
 ディーゼルエンジンは、従来型の内燃機関のなかで最もエネルギー効率が優れていることは認められていましたが、いくつかの弱みがあったことも事実です。しかし、コモンレール式直噴エンジンとターボチャージャーによりディーゼルが更に高効率化、高出力化することと並行して、石油業界の取り組みによるサルファーフリー軽油の世界的な普及が進み、ディーゼル燃料の悪臭や触媒への悪影響といった問題も解決されております。

 また、燃料生成をふくむ製造・流通・消費の一連の環境負荷を評価するWell to Wheelの考え方においても、ディーゼル燃料は精製プロセスに必要なエネルギーがガソリン製造時の半分のためCO2排出量はさらに軽減されます。燃料製造で最も環境にやさしいのは、材料が成長過程で二酸化炭素を吸収するエタノールなどのバイオ燃料です。ディーゼルはガソリンエンジンに比べ、バイオ燃料を容易にそして多量に適用できます。ディーゼルは地球環境にやさしいエンジンなのです。

 最もクリーンなディーゼル実現にむけ、様々な技術が開発され、改良が重ねられています。エンジンの効率改善によるクリーンかつ効率に優れた燃焼、酸化触媒コンバーター、粒子状物質除去フィルター(DPF)に加え、尿素を使用し、窒素化合物を大幅に軽減する選択触媒還元(ブルーテック)といった後処理技術による排出ガス中の有害物質のさらなる削減、これにより、厳しさの増す世界各国の排出ガス規制をクリアしていきます。

 ここであらためて、いままであった、「遅い」、「汚い」、「うるさい」といった旧来のディーゼルへの偏見を覆すニュークリーン・ディーゼルの実力を一つ一つ具体的に説明いたします。

 念のためディーゼルの最大の実力である経済性についてご説明させていただきます。メルセデス・ベンツの車両でガソリン車とディーゼル車のランニングコストを比較すると、ガソリンと軽油の価格差と、燃料消費量の関係で年間15,000km走行でディーゼル車のランニングコストは同等のパフォーマンスを誇るガソリン車の約半分になります。初期コストの差は約2年で回収でき、以降は維持費の節約が可能です。

 ディーゼルのパフォーマンスを見てみます。ディーゼルは同サイズのガソリンエンジンよりも圧倒的に強大なトルクを実現します。また、最高出力こそ差はありますが、ガソリンエンジンに遜色ないレベルを実現しています。この強大なトルクはFun to driveを約束します。

 加速性能も同サイズのモデルで比較してみました。 0-100km加速は3リッターディーゼルは排気量の大きい3.5リッターガソリンよりも0.1秒早い記録を実現します。ドライバビリティの良さが実感いただけます。

 これらのパフォーマンスがデータの世界のものだけでないことを確認すべく、メルセデス・ベンツは極限を試す走行テストを試みました。2005年アメリカ テキサス州でEクラスディーゼルは世界4周に等しい距離の10万マイルを平均速度225キロで30日間連続走行し、ディーゼルエンジンの世界速度記録を打ち立てました。なお走行テスト終了後の排出ガスレベルは、粒子状物質除去フィルター(DPF)により工場出荷時と変わらぬクリーンなものでした。

 また昨年10月にはパリを出発し、目的地を北京としたディーゼル車による最長のラリーを実施。合計36台のEクラスディーゼルを35カ国から参加した延べ人数360人のドライバーが運転し、14,000 km に渡る大陸横断を決行しました。悪天候、劣悪な道路条件にもかかわらず全車完走、燃費はトップチームが 13.9km/L (7.19 L/100 km)、36台の平均は 12km/L (8.32 L/100 km)を達成し、ニュークリーン・ディーゼルは、燃費、信頼性両面での優秀な性能を証明しました。

 旧来のディーゼルの騒音も過去の問題となりました。 全ての速度域においてガソリン車同等の騒音レベルを実現、ニュークリーン・ディーゼルはガソリン車とほぼ同等の静粛性を誇ります。

 こうしたことから、ヨーロッパにおいて現在ディーゼルは、スポーティな走りを実現しながら、クリーンで環境にやさしく、ガソリン車と同等の静粛性を実現する快適なエンジン、という魅力的なイメージが定着しています。日本でのイメージとかなり異なるのではないでしょうか?

他技術との比較
 続いて、異なるパワートレーン同士での燃費の比較、特にハイブリッドとの比較を説明します。ともに燃費性能に優れ、環境に優しい車ですが、それぞれに特性があります。現在のハイブリッド乗用車は、モーターとガソリンエンジンの組み合わせですから、一般的に渋滞など発生しやすい市街地走行で実力を発揮します。一方ディーゼルは特に郊外・高速道路の走行で真価を発揮します。

 実走行でEURO4規制に適合したヨーロッパ仕様のディーゼル、ガソリン、ガソリンハイブリッドの燃費を比較しますと、高速道路と一般道を混ぜたヨーロッパ複合モードではハイブリッドが1リッター当たり12.6km、ディーゼルが13.1-13.6kmとほぼ同等の低燃費性能を実現しています。

今後の見通し
 JDパワー&アソシエーツによる今後の世界的な見通しでは、2015年には日本市場のディーゼル乗用車は15%まで伸びると予測しています。西ヨーロッパは既に50%を越えるシェアを実現しておりますし、ガソリン車のマーケットである北米でもディーゼルシフトは既に始まっています。その理由はCO2排出量の少ないディーゼルエンジンが環境にやさしいかつ経済的なエンジンと認められているからなのです。

 ただし、今後日本市場でディーゼルを持続可能なセグメントにしてさらに環境に貢献するためには、次の条件が不可欠になります。ディーゼルに対する不当なマイナスイメージを払拭する政府支援、税金インセンティブ関係事項などのさらなる整備、クリーン・ディーゼル技術導入へ向けた政府、石油業界、車メーカー等キープレイヤーの相互協力、窒素化合物を削減するために必要な尿素インフラの整備などが主なものです。

持続可能なモビリティ
 今後も私共は、ディーゼルのみならず持続可能なモビリティ社会実現のための企業努力を惜しみません。第一段階として、現行のエンジン、パワートレーンの効率をさらに改善する。第二段階は全てのパワートレーンの潜在性能を引き出すために、グレードの高い燃料、代替燃料の使用の拡大。第三段階として排出ガスゼロの車、燃料電池あるいは電気自動車です。ご存知のようにメルセデス・ベンツでは1994年から燃料電池車両を導入し、世界の街中で100台、そのうち7台の燃料電池自動車を日本で走らせています。

 私共はディーゼルに留まらず、環境にやさしい車を開発してまいりますが、ニュークリーン・ディーゼルがなぜヨーロッパで人気があり、環境に貢献できるかご理解いただければ幸いです。

Dr.Friedemann Bruehl