卓話


イニシエイションスピーチ

2012年5月9日(水)の例会の卓話です。

D.M.アトキンソン君(掲載していません)
津島雄二君

三つの変化と21世紀

田辺信彦総合法律事務所
弁護士・税理事 
津島 雄二 君

1.40年前に起った三つの変化
 今世紀に入って20世紀と違う世界の潮流を感じる。その源を辿っていくと,みな1970年代前半に始まる。

 先ず,朝鮮戦争や台湾問題もあって相互に敵対視していたアメリカと中国が,キッシンジャーの訪中とニクソン・毛両首脳の会談によって対話の道を拓いたのが1971年から72年のことであった。ここでイデオロギー対立を軸とする国際関係は転換し,その後の米中平和共存路線が定着していった。

 第二は,1971年8月のいわゆるニクソン・ショックである。ここでドルの通貨価値について箍が外され,アメリカにとっては金融政策の自由度が増す一方で,国際的な資本市場でのその主導力が次第に失われていく。欧州における共通通貨ユーロの導入をその延長線に位置付けることができよう。

 第三は,1973年11月に始まった第一次石油ショック以来,数次にわたる原油の高騰である。この変化は世界の重化学工業などに大きな影響を与えるとともに,やがて地球温暖化の議論と相まって,環境問題ひいては近代文明の持続可能性の問題にまで波及した。同時にIT技術を始めとするテクノロジーの発展が促され,機械生産へのロボット技術の導入が普遍化した結果,新興国でも容易に先進国に比肩できる製品を相対的に安く生産できるようになった。

2.パラダイム変化とその影響
 これらの変化が21世紀の世界に大きな影響を与えない筈はなく,そこに住む私達が戸惑うことも少なくない。

 中国,インドなどいわゆるBRICSといわれる新興勢力の擡頭と先進国の競争力の減退は否定できない。また,日本をはじめ先進国の多くは,少子高齢化の現象を受けて国内市場が停滞気味である。福祉水準を維持するため,低成長のなかでも財政負担を限界に近いところまで背負わざるをえない。日本では追い打ちをかけるように大震災と原発事故が起きた。

 このような事態に対処するために他に教科書を探してみるわけにはいかない。われわれの足元を確かめて地道に未来への道筋を模索していくほかはない。創造的現実主義ともいうべき姿勢を堅持しながら,常に世界を視野に入れておかなければならない。

3.未来志向の扉
 このような難しい状況の中で一挙に解決できる方策は見当たらない。何よりも必要なことは,世界で通用する知識・技能や国境を越えて共感をかち取ることができる人材をもっと沢山育てることである。日本だけで通用する知性は,いわゆるガラパゴス社会をもたらすという指摘もある。中国が16万人もの若者を米国に留学させている現状に思いを致し,日本の教育や雇用の仕組みを思い切って変えていくことが必要だ。

 第二に環境とエネルギー問題への真剣な取り組みである。環境技術を開発し,その成果を積極的に海外に提供するため官民合わせた努力が不可欠だ。何を措いても先ず将来のエネルギーの実用化までの現実的な道筋を確立しなければならない。

 第三は,世界に先駆けて進む少子高齢化社会の実体験のなかから,その対応策を練り上げ先進的な役割を果たすべきである。この点で女性の社会進出と子育てのための公共の支え(保育などの現物給付)にもっと重点を移すことが望ましい。

 第四に日本の長寿社会をもたらした食文化を世界に評価されるとともに,これを支える農業水産の再生を図ることが必要だろう。また観光産業を更に活性化させ日本の文化遺産を積極的にアピールしてアジア近隣諸国を始めとする海外からの来訪者を大幅に増やすべきであろう。

 このように多くの課題に向き合うことで夢が生まれる。税と社会保障の問題などで希望的な幻想に逃避している暇はないと云いたい。