卓話


格付けの効用・格付けの視点

2005年8月31日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

蠧本格付研究所 
取締役業務部長 坪井清氏

 企業の「格付け」制度は20年前にできた若い制度です。その制度を格付けの意義,格付けの効用,格付けする場合の視点,という三つの観点からお話ししたいと思います。

まず一般的にいわれている「格付け」の定義は「債権等の元利払いの確実度を簡潔な記号(AAA,BBB)を用いて表示したもの」であります。「元利払いの確実度」を,デフォルトまでの距離といったりします。そして,この「格付け」は「中立的な格付機関による意見である」としています。この『意見(オピニヨン)』という表現は意味深で,これについては後で触れることにいたします。

格付けは,もともと,事業債の格付けをすることでスタートしました。事業法人の発行する債券の格付けです。ところが今や,社債の格付けだけではなくて,例えばCP(コマーシャルぺーパー「短期の約束手形」)を発行して資金調達をする場合にも格付けが行われています。

最近は,企業そのものを格付けすることも行われています。事業会社だけではなく,公共セクター法人,医療法人,学校法人などを格付けするということに広がっております。証券化商品の格付けも増えておりますが,企業が銀行から借り入れるローンについての格付けもするという時代になりました。ローンの格付けは,本来なら銀行の審査部門がやる仕事です。ところが今や,銀行の貸付債権を第三者機関が格付けするという時代になっており,私もおどろいています。

我が国での,金融庁長官から指定を受けた指定格付機関は,S&P(スタンダード・アンド・プアーズ),ムーディーズ,フイッチの非日系3社と,R&I(格付け投資情報センター)そして,私どものJCR(日本格付研究所)の日系2社があります。これが,いわば国定の5社です。国定ではありませんが三國事務所も,随意に格付けをなさっておられます。

世の中にはいろいろものの格付けがあります。有名なミシュランのレストラン格付けと指定機関による格付けの,どこが違うのかということを申しあげてみたいと思います。

ミシュランのレストラン格付けは「信用格付け」ではありません。要するに三つ星のレストランは味がおいしいとか,サービスがすばらしいとかということで星の数が決まってくるのだと思います。私どもがやる格付けは元利払いの確実度,法人の債務履行の確実度を評価する,信用格付けであります。このあたりが両者の違いでございます。

なぜタイヤメーカーのミシュランが,レストラン格付けをしたのかということは,既にご存じのことと思いますが,ある時,各地のレストランを調査したところ,南フランスには高級なレストランが多いことが分かりました。そこで,南フランスのレストランを,二つ星,三つ星に格付けして公表すれば,週末にはその三つ星レストランにドライブに行くにちがいない。当然,タイヤの消費もそれに比例する。したがってミシュランの売上に寄与するだろうという経営戦略を立てました。まことに優れた戦略で,いわば「風が吹けば桶やが儲かる」という話です。この話はマーケティングの教授の受け売りですけれども,要するに,リーダー企業のマーケティング戦略は,パイ全体を広げることである。そうすれば自分のところの売上も増え,利益も増える。それがリーダー企業の経営戦略であるというわけです。

最初の,格付けの定義のところで「格付機関の意見」ということを申しあげました。これが意味するところは二つあります。

 同じ格付対象に対して私どもが示す格付記号と他所の格付記号が違うことがあります。それは,それぞれの機関の意見ですから,必ずしもいっしょになることはあり得ません。例えば,日本の電力会社は,沖縄を入れると現在10社ありますけれども,その中のかなりの会社に対して,私どものJCRはAAA,最上級の格付けをしております。ところが他所の格付会社さんはAA,AA+とつけるところもあります。ことほど左様に,格付機関によって同じ○○電力さんに対して格付の結果が違うということがあります。これが「意見である」ということのひとつの現れです。

もうひとつは,最近アメリカでエンロン,日本でマイカルなどの経営破綻がありましたが,私どもが例えばAAとかAAAと格付けしている社債がデフォルトをおこしたときに,投資家は,JCRがAAAを付けていたから,その社債を安心してずっと持っていたのに,ある時期になって突然デフォルトになって,元利払いを受けられなくなった。それはJCRがAAAを付けていたことに原因があるといって,JCRに損害賠償の訴えを起こしたとしても,多分,裁判では負けます。

 格付けというのはあくまでも意見であり,その意見を採用するかどうかは投資家のオウンリスク,自己責任である,というロジックです。アメリカでも,これでずいぶん訴訟が起きたのですが,全部,投資家が敗訴して,格付機関が勝っています。

次に「格付の効用,メリット」についてお話しします。まず投資家にとっては,投資判断のときに,この格付けを活用できます。

格付けを取得なさる企業にとって,どんなメリットがあるかというと,本来的な効用は資金調達です。企業が公募債を発行なさるときとか,CPを発行なさるときに,格付けがないと事実上それらのことはできません。資金調達目的に使われるというのが本来的な格付けのメリットです。

CPについて若干コメントしますと,最近CPを発行するために私どもの格付けをお取りになる企業が非常に増えています。

 理由は二つあると思います。一つは,CPはたいへんに調達コストが安いのです。銀行から短期借り入れ金で調達する場合の1割相当の調達コストで調達できます。しかし格付けがないと,安いレートが取れません。そこで格付けが必要になるということです。

もう一つは,一昨年の3月から電子CP,CPの電子化が実行されました。最近の発行残高が20兆円を越える勢いです。電子CPにすると手形を発行しないですみますので印紙税もいりません。CPを出す企業が増えるにしたがって,格付けを取得する企業が増えるということになるのだと思います。

近時,ローン,銀行の借り入れについても格付けが出てきます。シンジケート・ローンは,ある企業に100億の貸し出しをする場合に,特定の銀行がアレンジャーと称して主体となり,そこにいろんな金融機関が集まって融資額を分割して同一条件で融資をするという形態ですが,これが成功する場合も,ローンの格付けがあると非常にやりやすい。さらには,シンジケート・ローンをセカンダリーマーケツトで流通させるということまで展望したものになると,必ず格付けがないと円滑なディーリングができません。

副次的な目的のために格付けを取得したいという企業が非常に増えています。

 一つは経営者から見て,その格付けを通して同じ業界における自分の会社の位置づけの把握ができる。あるいは,オール産業界の中にあっての自分の会社の位置づけを客観的に把握できる。

 もう一つは,経営指針としての活用です。自分の会社の格付けの理由をアナリストによく尋ねて,議論をして,客観的に理解した上で,会社の経営計画のなかに,格付けの目標値を織り込むという会社が多くなっています。

PRとしてお使いになる事例も多くあります。非上場企業の場合は,リクルートや営業ツールとして,上場企業の格付け記号と比較して示すこともできるわけです。

最後に「格付けする視点」ですが,一言で申しあげますと,企業が収益力によってあげられるキャッシュフローがどれだけ創出できるかがポイントです。それと企業が抱えている負債です。その二つのバランスで創出力が大きいほど格付けが高いと評価します。

企業から資料をいただいて分析しますが,実地調査もします。経営トップの方々と面談するトップインタビューもします。これらの作業は複眼的審査ということで役席のアナリストと担当のアナリストとの二人でやります。最終的には5人以上のメンバーからなる格付け委員会でデイスカッションして格付けをするという手続きになります。その結果を公表するかしないかということは依頼された企業に決めていただくことになっております。
  
格付けをお示しする際には,単に AAAとかBBなどの記号をお示しするだけでは十分でありません。なぜそうなっているのかということが企業の方にも納得していただくように,その理由を克明に述べた文章を添えます。それが格付けの本当の内容です。