卓話


21世紀における日本の大動脈輸送 

2008年2月13日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

東海旅客鉄道(株)
代表取締役会長 葛西敬之氏

 JR東海は、平成19年12月25日の取締役会で、2025年の開業を目標に中央新幹線(東海道新幹線バイパス)の首都圏〜中京圏間を超電導磁気浮上式鉄道(超電導リニア)により、全額自己資金での建設を前提に進めることを決定しました。

 日本の新幹線は、最初に東海道新幹線ができ、西は山陽新幹線に伸び、東は東北・上越新幹線に伸びたところで、国鉄の終わりを迎えました。

 JR東海は、東京〜大阪間の東海道新幹線を基軸とし、12の在来線アクセスネットワークを運営する会社としてスタートしました。

 国鉄の分割民営化以降は、整備新幹線という形で、盛岡〜八戸、高崎〜長野、新八代〜鹿児島中央などが開業し、更に八戸〜新函館、長野〜金沢、博多〜新八代の工事が進んでおります。他にもいくつか計画がありますが、全国新幹線鉄道整備法のなかで、ずっと後位に置かれているのが、中央新幹線です。中央新幹線と東海道新幹線は事実上、同じ使命をもっており、「中央新幹線は東海道新幹線と一元的に経営すべきである」という運輸省(当時)の公式見解も得て、超電導リニアの技術開発を含め、東海道新幹線の役割を発展的に代替するものとしてバイパスの計画を進めています。

 東京〜大阪間の到達時分の変遷を紐解いてみますと、戦前は8時間でした。戦後、電化が進み、昭和33年、電車特急「こだま」により6時間30分まで短縮しました。この「こだま」が新幹線の先行的テストになりました。

 昭和34年から東海道新幹線の建設に着工し、昭和39年に開業しました。時速200kmと称していますが、時速220 kmの性能をもった車両を投入して東京〜大阪間が約3時間になりました。JR東海になってから、時速270 km化を目指し、300系、700系、N700系という新しい車両を投入してきました。

 現在、東海道新幹線のすべての車両は少なくとも時速270 kmで運行できます。性能的には300系は最高時速270 km、700系は時速285 km、N700系は時速300 kmを出すことができますが、東海道新幹線沿線の人口超過密地域では騒音振動問題を惹起せぬように、最高時速270 kmで運行しています。平成4年にデビューした「のぞみ」は、東京〜大阪間を2時間半まで短縮しました。

 昨年7月に投入した最新モデルN700系は、日本の新幹線で初となる車体傾斜システムを採用し、半径2500mのカーブを時速270 kmで走ることができます。それまで、カーブでは運転速度を時速255 kmに落としていましたが、それが不用になることで省エネ効果があると同時に時間短縮も可能となりました。ただし、N700系投入による短縮時間は東京〜大阪間で約5分です。今や、鉄の線路の上を鉄の車輪で走るモードで達成できる完成点に至ったといえます。これ以上の飛躍を成し遂げるために何かがあるとすれば、それは当社が開発してきた時速500 km、東京〜大阪間を1時間で結ぶ超電導リニア以外にはありません。

 次に東海道新幹線の列車本数をみますと、 JR東海発足時の東海道新幹線は、「ひかり」と「こだま」しかありませんでした。ひかりが1時間に6本、こだまが1時間に4本運行する「6-4ダイヤ」で、1日の列車本数は235本でした。現在は列車本数は大幅に増加し、定期列車で1日に305本を運行し、1時間にのぞみ8本、ひかり2本,こだま2本という「8-2-2ダイヤ」になっています。お盆や年末年始などのピークには弾力的に列車本数を増やし、昨年8月には1日に372本を運行しました。

 他方で、東海道新幹線の線路容量(最大運行本数)である1時間に15本に対し、現時点ですでに12本を走らせており、このままではその輸送能力はアッパーリミットに達してしまうことになり、何らかの対策が必要であることがご理解いただけると思います。

 新幹線と航空機の輸送量のシェアをみますと、東京圏〜名古屋圏は100%新幹線。東京圏〜大阪圏は新幹線80%、航空機20%。東京圏〜岡山圏は新幹線60%、航空機40%。東京圏〜広島圏は新幹線53%、航空機47%。東京圏〜福岡圏は新幹線9%、航空機91%となっており、現在は新幹線が押し気味であります。

 新幹線の電力消費量について、時速220kmで走る初代東海道新幹線0系の電力消費量を100%とすると、最新のN700系が時速220kmで走行した場合は51%に半減し、時速270kmで走行した場合でも68%に減っています。この数値からも20年間の省エネに対する努力がお分かりになると思います。

 環境問題は今年のサミットのメインテーマになることが確実ですが、日本の総CO2排出量のうち運輸部門の占める割合は約20%です。国として適切な交通システムの構築は重要な要素になると考えます。

 イギリスで蒸気機関車が発明されてからこの200年間に鉄道は磨き尽くされました。これからは、同じところに安住していては使命が果たせません。今こそ、鉄道に新しいブレークスルーが必要であり、それが、当社が会社発足と同時に開発に取り掛かった「超電導リニア」なのです。

 超電導とは、超低温状態(マイナス269度)になると電気抵抗がゼロになる現象です。この状態で電気を流すと極めて強力な電磁石が作られ,しかも超低温状態が続くかぎり、永遠に流れ続ける性格をもっています。これを使ってリニアモーターを動かすと、強い磁石による強い反発によって、車体が100mmほど浮上して、磁石の力によって前進後退します。これが超電導リニアの原理です。

 次に、列車が最高時速に至るまでの助走距離を比較してみますと、JR東海のN700系が時速300kmに達するのに12.9kmの助走距離が必要です。フランスのTGVは20kmの助走距離が必要です。ドイツが開発した常電導磁気浮上のトランスラピッドが上海で実用化されていますが、時速430kmになるには13.3kmの助走が必要です。これに対して当社の超電導リニアの時速500kmに達する助走距離は僅か5.7kmです。もし時速430kmでいいとすれば、3.9kmで十分です。磁石の強さを超電導と常電導で比較すれば、決定的な性能の差を生み出します。超電導では例えば1列車16両をつないで1列車1000座席での運行が可能ですが、常電導の場合は10mmの浮上しか得られませんから、3両程度しか連結できません。

 それでは、この超電導リニアによる東京〜大阪間の東海道新幹線のバイパスをどう作っていくかについてお話します。これまで山梨県にある18.4kmの実験線で約10年間、試験走行をしてきました。当社ではこの実験線を自己資金で42.8kmに延伸することを決定して既に着工しております。新しい実験線は実用線仕様で建設し、将来これを営業線にしようと考えています。完成すれば、首都圏〜中京圏間290kmの約7分の1が建設されたことになります。その後この実験線を東西に伸ばすことで、首都圏〜中京圏は結ばれることになります。

 東海道新幹線は海側を通っていますので、東京〜名古屋は約350kmですが、中央新幹線では約290kmですみます。

 首都圏は、地下40mよりも深い所、途中区間は、中央アルプス・南アルプスを貫くトンネル、中京圏は地下という形で、全体の8割以上がトンネルと地下を走行するように建設されます。建設費は約5.1兆円と考えています。

 このバイパスが完成すると、首都圏〜中京圏は55分の短縮、首都圏〜近畿圏は40分の短縮、岡山、広島といった地域も大幅な時間短縮の効果を享受できることになります。

 一方、現在の東海道新幹線はどうなるかというと、「のぞみ」の機能はバイパスに移行し「ひかり」を主体とする運行体系になります。三島、静岡、浜松、豊橋などは「ひかり」がたくさん停車するようになり、現在よりも短時間で東京・名古屋と結ばれるようになります。これにより、東海道新幹線沿線の各主要都市における開発可能性は大きく高まることになります。

 超電導リニアによる東海道新幹線バイパスの実現の必要性と効果をまとめますと、
1.東海道新幹線バイパスは、21世紀の国民的な夢の具現化であると言えます。
2.時間短縮によるサービスアップと経済効果を考えることができます。東京    
〜大阪間はもちろん、山陽新幹線方面にも時間短縮効果が波及します。更にダイヤの弾力性が増すことから、東海道新幹線の沿線都市と東京・名古屋・大阪との所要時間が大幅に短縮されます。
3.輸送能力の抜本的増強が図れます。
4.地震災害や東海道新幹線の大規模取替工事などのリスクに対し、日本の大動脈を二重系化することが可能になります。
5.日本の新しい土木建築技術、電力技術などを強化するコアになります。
6.東海道新幹線およびバイパス沿線地域の開発可能性が向上します。
7.輸送システムとして、鉄道のみならず、航空・自動車など各交通機関のいちばん有効な使い方を、自由度を持って弾力的に構築することが出来るようになり、国家レベルで環境親和性の高い交通体系を実現できるという効果があります。

 以上が諸々の効果ですが、1825年に蒸気機関車が発明されて以降、19世紀は鉄道の世紀でした。20世紀は鉄道衰退の世紀といわれましたが、1964年に東海道新幹線が作られたことで鉄道は息をふき返しました。次の時代、超電導リニアを日本で成功させることが、21世紀の新しい大量高速交通機関を世界に敷衍するきっかけになると思います。