卓話


M&Aの新潮流 

2007年1月31日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

ピナクル株式会社
代表取締役会長兼CEO
九州大学 客員教授
安田育生氏 

一昨年のライブドア以来M&Aの話題に事欠きません。敵対的買収も含め、M&Aが本格的に増加してきました。

M&Aが最近増大した理由は,三つほど考えられます。
先ず第一は、「売り」が増えてきたというです。 かつて,「売却」のイメージは,バブル経済の崩壊の後,会社の経営が苦しくなったので致し方なく手放さざるを得ないとか,後継者がいないので売らざるを得ない,という「仕方なく売却」という動機でのものでした。昨今は,全く逆に「いい会社だから売る」というケースが出てまいりました。いいうちに売却すれば,いい価格で売れるという前向きな売却が増えてきました。

第二は,大企業のなかで「選択と集中」という名のもとに,会社の組織,子会社群を洗い直して,シナジーが薄くなってきた会社を売却して,それで得た資金を、より企業価値を高めるための企業買収資金にするケースが増えてきていることもあろうかと思います。
最後の理由は,「売りたくもないのに無理やり買いにくる」というケースです。これが,いわゆる敵対買収です。海外のアクティビスト・ファンドといわれるファンドが活動するケースです。市場で30%以上を買い占めて,最後にT0Bを仕掛けられて,やむなくホワイト・ナイトに助けられるのですが,結果的にファンド側がずいぶん儲けています。そういうケースが今後出てくることを懸念いたします。

こうした外資系のファンドは,いずれも膨大な資金量をもったファンドばかりですから,昨年の明星食品のようなケースは「氷山の一角」にしか過ぎず,これからは,味をしめたファンドのM&Aがますます増えることが予想されています。

アクティビスト・ファンドのように経営陣に脅威を与えるファンドもあれば、友好的なものしかやらないというバイアウト・ファンドも増えてきています。いずれもこうしたファンドは巨額の資金を運営していて日本での活動を本格化させています。和製ファンドも数を増しています。これらのファンドの存在がM&Aの増大に寄与していると思います。

 友好的ファンドの役割は,ウエアハウス(倉庫)機能といいまして,Aという会社がBという事業目的をもった会社に最終的に買収される過程で,一旦ファンドが買収して,経営効率をあげて,本来に収まるべきBという会社につなぐ中間の役割をします。

 1980年代に競争力が落ちていたアメリカの大企業が,M&Aを積極的に活用して会社の構造変革(リオーガナイゼーション)をして競争力の回復をしていったときに,このバイアウト系のファンドがその役割を果たしたといわれています。

 もうひとつの最近の傾向として特筆すべきことは、「上場の苦痛」という問題であります。,かつて上場は「良いことずくめ」でありました。資金調達は多様化する,ステイタスが上がる,いい人材が集まるなどなどでした。しかし昨今は,上場しているがゆえのデメリットが目立つようになってきました。私は「上場の三大デメリット」と呼んでいます。敵対買収の脅威、コンプライアンスの遵守、IRの負担の三つです。これらは資金的にも精神的にもかなりの負担になっているようです。

こうしたデメリットに苦しむくらいなら(もし無借金会社であって資金調達の必要が全くないという会社の場合には)、この際,非上場化してしまおうという動きが出てきています。いわゆるMBO(マネージメント・バイアウト)です。 MBOは,ある程度の持ち分をもっている株主には割りと大きな資金が入ってくるというメリットもあります。また,大会社からスピン・オフされるくらいなら,現在そこにいる工場長もしくは関係会社の社長が自分でMBOするというケースもあります。その場合の買収資金はファイナンスの仕組みと友好的なときに活躍するバイアウト系のファンドが大半の資金を提供して,経営者の皆さんにはストック・オプションのような形でインセンティブをもっていただくというようなケースになっているようです。

今年の出来事として特筆すべきことは,会社法の改正です。外資による株式の交換による合併が可能になります。だからといって,黒船到来で,すぐ敵対買収で飲み込まれるというほど,手続き的には簡単になってはいませんが,日本に参入することをねらっている外資が,これを機会にM&Aがしやすくなったことは事実です。

敵対買収は過去日本では一度も成功していません。だから安心だと思っている方が多いようですが、それは勘違いです。ほとんどのケースで仕掛けた側が大変儲けています。守る側がお金で解決をしてしまうからです。会社法改正後の外資や先に述べたアクティビスト・ファンドの動きが今年は間違いなく増加いたします。敵対買収の防衛には,平時の防衛策と,有事の防衛策がありますが、いったん有事になってしまうと,多額のお金で解決しなければならないことが大半です。買い占めが始められたという状況になってからの防衛は,相当な資金を投入しなければなりません。このようなことにならないように,平時の間に買収されにくいような会社にしておくべきだと思います。

定款の変更とか,取締役の任期をずらすとか,いろいろな防衛策があります。平時の間に準備をして然るべきと思います。 私どものほうにも昨今こうしたアドバイスのご要請が急増しております。

もうひとつ敵対買収について特筆すべき出来事としては,昨年の王子製紙による北越製紙の敵対TOBがあげられます。従来敵対買収というのは,タブー視されていました。敵対買収はアクティビスト・ファンドのような一部の人達しかやらず、伝統的で歴史のある会社は行わないものだという感覚がありました。ところが昨年の夏の王子製紙による北越製紙に対する敵対TOBで世の中が一変いたしました。

 王子製紙の社長さんがテレビで「まともな会社による,まともな会社に対する,まともな動機での初めての敵対TOB」と言われたのが印象に残っています。まともな会社がタブーを乗り越えて敵対買収を試みました。心配された世論も王子には逆風とはなりませんでした。タブーが外れた瞬間でした。いったんタブーがなくなると,世の大企業の経営者の中には自分もやってもいいんじゃないかなと思う人が出たのではないでしょうか。

 逆に業界3位,4位の中堅クラスの会社は,今までは,株価が低いから狙われるという動機だけを注意していればよかったのですが,これからは,いい会社だから,より大きな会社に買われてしまうのではないかという恐怖が芽生えたとしてもおかしくはないと思います。

同じころ,紳士服の「AOKI」が福岡の「フタタ」という服飾会社にTOBを提案しました。フタタは最終的には「コナカ」に救われました。このケースの場合も王子製紙の場合と同じように,全国展開をしている会社が,ある地方に強い地盤をもっている会社を傘下に収めたいということから始まったものです。

地方の有力な会社が,次は自分が狙われるという恐怖をさぞかし持ったことでしょう。

先程来,敵対買収という言葉が話のなかに頻繁に出ておりますが,ここで「敵対買収」とはなんぞやと考え直さないといけないかなと思います。
 
「敵対的」というのは,本来使うのは相手の会社の経営陣に対して攻めるという形なのですが,アメリカあたりでは,敵対買収という言い方よりは「招かれざる買収(unsolicited offer)」という言い方をします。アメリカでは,それが敵対とみなされるか友好とみなされるかは「ねらわれた相手の会社の取締役会が承認するかしないかによる」としています。

 ねらわれた相手の会社の取締役会は,望まれない買収を仕掛けてきていることに対して,何を判断基準にするのかというと,offerが会社の株式価値を高めるかどうか,を基準に判断するのだろうと思います。取締役を兼ねている経営陣の保身であってはならないとされています。従ってたとえ動機が敵対であっても、株式価値の向上をうたい文句に取締役会で認めさせてしまう、その結果友好的買収に変わってしまうということがアメリカでは頻繁に行われています。

今度,会社法の改正で外資が入ってきますと,そのへんに長けた国際的大企業が入ってくることが予想されます。入り口では「招かれざる買収」のofferであっても最終的には株主を納得させるような形で入ってきて「友好的買収」に変化させられているかもしれません。,防衛の方も益々高度化していかないと難しくなってくると思います。

松下電気産業,新日鉄といった,あれほどの超大企業でも敵対買収防衛のガイドラインを設けています。それは何十兆円という時価総額を持って日本への参入の機会を図っている外資系企業に対する防衛を準備しているわけです。

平時の防衛準備をするだけなら,費用もたいしたことはございません。是非,平時からの準備をなさっておいてください。

以上敵対的な側面ばかりお話してきましたが、M&Aというのは,本来,友好的なものが大半であり、重要な事業戦略の一つとしてなくてはならないものになりつつあります。事情拡大,株式価値の向上のためにも,前向きに,ただし友好的に、M&Aを検討されることがよろしいのではないかと思います。