卓話


世界理解月間例会
 Ladies Day
2004年の国際情勢と日本の役割

2月18日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです

前駐米大使 
中央大学法学部 教授
三菱電機蝓ー萃役
 柳井 俊二氏

1 2004年の世界が抱える問題
 今,約50の紛争が世界中にあります。正に天下大乱の時代です。

例の9.11テロがアメリカ人に与えたショックは,恐らく他の国の人たちにはわからない程の大きなショックです。事件が起きた時に,これは第2のパールハーバーだといわれましたが,真珠湾は日本の海軍航空隊がアメリカの海軍基地を叩いたわけで,一般の人々を殺すといったテロとは全く違う話であります。

9.11テロはアメリカの心臓部がやられた。ニューヨークという経済の中心,ペンタゴンという国防の中心がやられたということで,大変なショックでした。9.11のテロがなかったとしたら,恐らくアメリカもイラクであれだけ強硬な態度に出なかったと思います。

今年の世界は,サダム・フセインは捕まりましたが,アル・カイーダのオサマ・ビンラーディンの所在は不明ですし,テロの問題はまだ片付いておりません。

イラクも相変わらず不安定な状態が続いておりますし,北朝鮮の問題もほとんど解決の目処が立っておりません。今年も昨年に引き続いて,テロ・イラク・北朝鮮という大きな問題を我々は抱えているということだろうと思います。

台湾の問題も目が離せません。3月20日に総統選挙がございます。現職の陳水扁総統と国民党の候補である連戦氏との戦いが伯仲しているようであります。陳水扁さんは台湾の独立を掲げておられます。これに対して大陸の中国はたいへん神経質になっております。 1996年と2000年の台湾の選挙の時も中国は強硬な態度に出まして,特に1996年には,大規模な軍事演習をやって,一気に緊張が高まりました。

 今度の3月20日の選挙には,陳水扁さんは独立に関する国民投票もやりたいと言っています。さすがに国の内外から慎重論が出まして,間接的な形で台湾の独立を問うということを考えているようでございます。

日本経済と世界経済は,みんなの関心事ですが,日本経済にも多少の明るさが見えてきたと思います。アメリカの経済も,住宅投資だとか設備投資に明るさが見えてきているということで,これからは中国経済の動向が大きな重みをもってくると思います。かつて中国は石油を輸出していましたが,今は純輸入国になってしまっています。これもひとつの経済発展の結果だろうと思います。最近では,中国の元が安すぎるという批判も出まして,為替管理制度を整備するという動きも出てきているようでして,徐々にですが,中国の経済制度も近代化の方向に向かってきていると思います。

今年の11月には,アメリカの大統領選挙がございます。この選挙はアメリカ国内の問題に留まらず世界に大きな影響を与える選挙だと思います。前回の選挙ではフロリダの攻防がありました。何度か計算をやり直した結果,最後は537票差という僅差でブッシュさんがゴアさんを破りました。

今度の選挙については,民主党候補ではケリー上院議員がリードしているようです。実際の選挙で,ブッシュさんとケリーさんがどういうことになるかはまだ分かりません。

 アメリカの経済がこの秋にどうなっているかということがひとつの大事な要素になると思います。イラクの状態が非常に悪くなったというようなことにでもなれば,ブッシュさんの方が困った事態になると思いますが,今のような状態が続くかぎり,そのようなことにはならないと思います。

2 イラク問題
アメリカとイギリスが,国連の安保理の許可なしに武力行使をしたことが合法的かどうかということが争われてまいりました。

国際法的に簡単に言えば,安保理の許可なしに武力行使をしたことがいいということにはなりません。ヨーロッパの一部では,相当強くアメリカを非難する声がございます。しかし,アメリカ,イギリスだけが悪いということではなく,根本的には安保理が何も決められなかったというところに原因があると思います。

法律的な説明は,なかなか難しいのですが,政治的には正しい選択であったと思います。日本の立場からすれば,石油輸入の90%近くをあの地域に依存しているのですから他人事ではありません。イラクの安定に関しては,日本としても何かをしなければいけないと思います。

残念ながら安保理が割れて,いまだにアメリカとヨーロッパ主要国の間に亀裂がはしったままです。これは世界にとって困ったことですので,是非修復してほしいと思います。 今,問題にすべきは,一日も早くイラクの国民に主権を返して,イラクを安定させて復興を図ることだろうと思います。しっかりとした受け皿を作って,復興が軌道に乗るようにしてあげるのが,我々の努めだろうと思います。自衛隊の人道復興支援は我が国として当然に為すべきことだと思います。

3 北朝鮮問題
北朝鮮問題の本質は,金正日の独裁体制が根本にあり,その結果,人権の抑圧,拉致,経済の破綻があり,軍事力を基にした瀬戸際外交を続けるという危険なゲームをやっております。いちばん頭が痛いのは核兵器の開発でありまして,25日からの北京での6カ国協議でもそう簡単には片付かないと思います。

拉致について,先日,外務省の高官が平壌に行きましたが,予想どおり何も出てきませんでした。この時期に北朝鮮が拉致の問題を話そうという態度に出たというのは,6カ国協議で,日本が拉致問題を出さなくするようにすることに狙いがあると思います。その為には日本とは事前に拉致問題を話したことにするという意図だと思います。

この問題は相当な圧力をかけながら,粘り強く話していくほかはないと思います。最近,外為法を改正して経済制裁は単独でもできるようにしました。また,船の入港を禁止する法律案も出ておりますが,そういう圧力をかける手段を,遅まきながら持つようになったということは結構なことだと思います。

4 世界が抱える長期的問題
国連の機能不全は大きな問題です。グローバライゼーションに伴う競争の激化は,小さい国にとっては脅威です。貧困問題や地球環境問題も大きな問題として残っております。 平和と安全に関しては,国と国との間の紛争のほかに国内紛争や宗教対立もありますが,新しい脅威として,大掛かりなテロと核兵器に代表される大量破壊兵器の拡散という問題が浮上しております。恐ろしいのは核兵器がテロリストの手に渡ることであります。何としても阻止しなければなりません。

実は,9月11日のテロの数日後,国務省のアーミテージ副長官の所に行きまして対応策を協議したことがございます。非公式な協議なので日本の新聞テレビに中身を言わなかったのですが,翌日の報道にアーミテージさんが私に「Show the flag!」と言ったと報じられました。しかし,彼はこの言葉を使っていません。このような報道がなされたことは非常に不思議なことです。さらに困ったことは,日本の英語の先生の何人かが日本の新聞に投稿されまして「柳井大使は英語がわからないようだ」柳井大使は「Show the flag!」を「日の丸を見せろ」と訳したらしいけれども,それは間違いである。本来の意味は「旗幟鮮明にせよ」つまり旗印をはっきりさせろ。「敵か味方か言ってみろ」といった意味だという批判をされました。そもそも,私が言われてもいないことをマスコミに勝手に報道されて,そのことで私が批判されるのは,これこそ本当にハタ迷惑であります。

5 日本の役割
日本は,自分の国が平和であればいいという一国平和主義から,今は,平和の構築,平和維持の為に自衛隊の派遣も含めて積極的になってきたと思います。

外交的にも,カンボジア和平,ボスニア紛争等の問題の解決にも努力するようになってまいりました。

自衛隊による平和活動の拡大はPKO活動に留まりません。ODA活動も増やすことが必要です。東アジアの地域協力も,中国や韓国と協力して考えていくべきだと思います。 平和活動を制約するものが二つあると思います。ひとつは日本国憲法第9条の制約。もうひとつは武器輸出三原則です。私は、憲法を改正すべきだと思っていますが、そのためには、新しい国民的コンセンサスを作る必要があります。

日本全体の競争力の強化も必要です。これは経済の構造改革だけではなくて,教育の改革も行わないと,このままでは日本は国際的な競争力を失っていくと思います。

最後に,これからの日本には,やはり万一の場合に備えてのミサイル防衛力の強化,アメリカとの同盟関係の強化ということが必要だと思います。





Guest Speaker

Mr. Shunji Yanai
Former Ambassador to the United States
Professor of Law, Chuo University
Director, Mitsubishi Electric Corporation
and Mrs. Yanai


Guests of Honor

H.E. Mr. Eero Kalevi Salovaara
Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary of the Republic of Finland
and Mrs. Salovaara

Mr. Peter Reinhardt
Minister of the Embassy of Switzerland

Ms. Jane Owen
Commercial Counsellor, Director of Trade Promotion
of the Embassy of the United Kingdom
and Mr. David Donnelly

Ms. Margot J. Carrington
Cultural Affairs Officer of the Embassy of the United States