卓話


地方自治について

2009年8月26日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

地方公務員共済組合連合会
理事長 松本 英昭氏

1.地方分権の視点 

 昨年のリーマンショックの後に,ある週刊経済誌で著名な経済評論家が,日本がバブル崩壊後の10年以上の長い沈滞の時期を経て,ようやく回復の兆しが見えてきたころ,海外の有名な投資ファンドが「日本は“買い”の対象になり得るかどうか」ということについて,ある調査をした結果を書いています。それは日本の地方政府のことで,要約してご紹介します。

 「彼らの結論は『日本を“買い”の対象にはしない』」というものであった。その根拠は,「地方政府の意識は,コミュニティとしての自立の覚悟は十分とは言えないとう結論を下さざるを得なかった。中央政府依存の思考は牢固としたものであり,自立への取り組みに見るべき程のものは見出せなかった。とりわけ問題を感じたのは,現状打破のための対抗命題の構築という発想が全く欠落していることである。中央依存の体質は21世紀にも持続するものと考えざるを得ない。さらに権限と責任の一体化という,統治,ガバナンスの確立における基本に溯った時,日本という国家の欠陥は明瞭と言わざるを得ない。」

 私は,この記事を読んで思い出したのは,かの福澤諭吉が明治10年(1877年)に著した『分権論』のことです。その中で福澤諭吉は,「国のあり方として二つの別がある。それを大きな木に例えると,一つは細い根が地面に張り巡らされて,しっかりとした基盤の根となって,そうした基盤の根が集まって一つの大きな幹を持つ大木となって枝葉を繁らせるように,全国が成り立つのである。他の一つは,大きな幹が根を下ろして,幹の力でもって養分を吸収して,枝葉を維持するようなものである。この二つは,外見はよく似ていても,大風,暴風に遭えば,そのうち,強弱ははっきりする。」と言っています。

 つまり前者は強いが後者は弱い。即ち,地面に細根を張っているようなものが地方分権,一本の太い幹で支えていくのが中央集権だということです。

 福沢諭吉は「一条の巨根は幾多の細根に若かず」と言い切っています。

 私は,地方分権は,地方側の視点だけではなく,国の政治・行政や社会の構造の在り方の視点からも,大きな潮流でなければならないと思うのです。

2.地方分権とは

 地方分権の目指すところ(目標)は,地方で自主的・自立(律)的に,政策・施策を樹立し,戦略を立て,適切かつ効率的に管理・執行ができるようになることです。ここでいう「地方」という概念は,国に対する地方です。したがって東京も「地方」です。

 地方分権の必要性については,「本質的・伝統的なもの」と「今日的なもの」とがあります。

A)本質的・伝統的なものには,
 |亙自治は,民主政治の基盤である。民主政治の最良の学校である。
 現地での処理が最も的確で迅速で効率的である。
 C亙は各行政分野を関係付けて一体的・総合的に処理できる。
 っ亙は先導的・試行的施策が展開できる。

B)今日的なものには,
 〔声0瞥茲痢峅莪貪,統一的,均質的,結果の平等」の価値観が成熟化社会になるにしたがい「個性的,創造的,精神的豊かさ,機会の平等」に変化してきた。このように集権的価値観が分権的価値観に変わったことに対応する政治・行政のシステムで,社会の創造的発展をもたらす。
 国家の役割を重点化・純化して,国の機能を重点・強化できる。
 タイミングのよい,スピード感のある政治・行政。変化への的確な対応は分権的な仕組みの方がふさわしい。無駄も排除できる。
 っ楼茲砲ける新たな「公共」の形成。従来のような「公だけが主体」ではなく,個人・民間組織・企業と公共が協働して作るネットワークの構築ができる。
以上が地方分権の必要性(意義)です。

3.地方分権改革とは

 地方分権改革とは,今までに述べた,視点,目標,必要性を踏まえた,政治・行政システムの改革です。簡潔に言えば,地方における「権限」・「財源」・「人間」の「三ゲン」を確保・充実し,強化・改善する改革です。

 そして,「三ゲン」の改革の大前提として国と地方の役割の分担に着眼して,その原則を明確にすることが肝要です。

 その上で,「三ゲン」を確保・充実し,強化・改善を阻害する要因を除去する改革を行うことです。その際「三ゲン」のいずれについても「量」と「質」についての改革の課題があります。

 その内容は以下のとおりです。

A)権限(事務・機能)に関して,

 国から地方へ,都道府県から市町村への事務権能の移譲ということです。このことについては,補完性の原理や,近接性の原理というこが言われます。
 補完性の原理とは,社会の構成単位の関係において下位の単位を優先するという思想です。近接性の原理とは,公的責務は一般に市民の最も身近な行政主体が行うべきだという思想です。
 また,地方自治体に対する国の義務付け・枠付けや関与の廃止・縮小(規制緩和等)が不可欠です。これは「質」の改革です。

B)財源・財政に関して,以下のものが挙げられます。

・国と地方の税源配分の見直し。
・使途が縛られている国の補助負担金を整理合理化して,地方が自由に使える
 財源を増やす。(一般財源化など)
・財源の地域格差の是正。(三位一体改革に対する地方の不満の資料を参照)
・国による地方の財政支出の強制の見直し(国の直轄事業に対する地方負担金
 制度の見直し。間接補助制度の見直し。)。

C)人間・組織に関して
・国の地方出先機関の廃止・縮小と自治体への移管。
・各府省から自治体への出向人事の改善。

 そしてたいへん話題になっているのは,「地方分権改革の在り方についての協議及び国の施策で地方に影響のあるものに関する協議の場」の法制化の問題です。

 このことは,今回の選挙におけるマニフェストに各政党が掲げていますので,選挙後には急速に進むと思います。

4.地方分権改革についての地方からの要望

 かねてから地方側から強い要望がありましたが,今回の総選挙にあたり,地方側には地方分権改革への強い期待があります。各政党の政権公約に盛り込むように要望がなされました。平成21年6月18日に全国知事会から,7月9日には全国市長会から,それぞれ要望や要請が出されています。(配付資料参照)

5.道州制の導入について

 道州制の構想は戦前からありました。その議論は,昭和30年代ぐらいまでは,どちらかというと,国の政府が地方を支配しやすい,統治しやすいという観点からの道州制でした(中央集権型の道州制といっております)。
 
 しかし,昭和50年代の初めには,その考え方はなくなりました。ただし現在でも,そういう道州制を主張する方はおられます。

 今の大きな流れは,「道州制は地方分権の究極の姿」であるとか,「地域主権型道州制の実現」ということで議論されています。

 では一体,何がどう違うのかというと,地方分権型といわれるものは,考え方として,都道府県の権限はできるだけ市町村に下ろしていく。国の権限もできるだけ広域自治体に下ろしていく。受け皿となる広域自治体は,ブロック単位の道州(仮称)に再構成する。権限(事務・機能)はできるだけ住民に近いところに下ろしていくという考え方です。また,道州の組織は,その長を直接公選にするか議院内閣制のような選び方をするかはともかくとして,いずれにしても選挙を通じて選ばれる者で構成する。

 以上が地方分権型道州制の要素です。

 以前の道州制のなかには,例えば,長を国が道州の議会の同意を得て選任する構想などがありましたが,そのような道州制は駄目だということで,地方分権型の道州制が議論されています。

 この件については,平成18年2月に,第28次地方制度調査会が「道州制のあり方に関する答申」を行いました。そして,「国と地方の双方の政府の在り方を再構築する見地からは,道州制の導入が適当である」という趣旨の答申がされています。当面の焦点は「道州制基本法」の制定です。各政党の政権公約では,自民党は「基本法の早期実現」,公明党は「地方主権型道州制の導入促進」,民主党はマニフェストに記載なしです。まずは基礎的自治体の強力化が先だという姿勢です。

 道州制の趣意について,私なりに大括りにまとめてみますと次のとおりです。

ア)地方分権が実現できるよう,地域住民の自主・自立の体制を広域自治体レベルで確立する。

イ)地域経営戦略としてブロック単位のまとまりで発展を期する。これからの国際的競争には今の都道府県単位では不十分である。

ウ)国と地方の間における,無駄の多い仕組みを解消する。抜本的改善を行わねば財政がもたない。要は,道州制を導入してすっきりしたものにしようという考えです。

 地方分権について,ごく大雑把なお話をさせて戴きました。たいへん教科書的でしたが,お許しいただきたいと思います。