卓話


大規模停電は防げるか?
−停電に備えて、我々は何を準備すべきか−

2022年6月22日(水

東京電機大学
教授 加藤政一氏


 日本の電力供給システムは、並列設備の一つが故障しても停電することなく供給継続できるように作られ運用されており、東京の中心部など重要なエリアになると、2、3の並列設備が事故で止まったとしても停電しないようになっています。電源に関しては、エリアで最大容量の発電機停止に対しても供給継続できる条件です。また、基準を上回る事故に対しても、停電は限定化され復旧が迅速化されるように設計されています。
 大規模停電が発生する理由は3つ挙げられます。

 1番目は、想定を上回る事故(故障)が発生した場合です。2018年の北海道胆振東部地震による北海道のブラックアウト(全域停電)がいい例で、東日本大震災も同様でした。

 2番目は、系統を取り巻く環境の変化です。中部電力管内で起きた碧南線事故は、再生可能電源が大量に系統に接続されたことで系統の特性が変化したため、事故により周波数が想定以上に低下し、大規模な停電に至りました。

 3番目は系統間の情報共有が不十分なことで、海外に例がありますが、日本ではおそらく発生することはないと考えられます。

 大規模停電の原因として一番多いのは発電機の大量停止によって周波数が大幅に低下することです。周波数が低下した状態では火力発電設備の損傷につながる可能性があるため、負荷を停電させることで発電と負荷のバランスを非常に短い時間でとり、周波数を元に戻します。東日本大震災の時には津波によって、かなりの電源が止まり、最終的には570万kW以上の負荷を停電させて発電と負荷のバランスをとりました。

 停電といえば、送電設備、例えば電線が切れたり電柱が倒れたりして停電するイメージを持たれる方が多いと思いますが、これらは停電の範囲が限定されており、大規模なものにはなりにくいのです。

 また、自然災害による送変電設備の故障の原因は、雷、雪の比率が高いのですが、高速再閉路(送電線または配電線が当該区間の事故で遮断した場合、1秒以下の無電圧時間をおいて自動的に遮断器を再投入する装置)というものがあり、送電線で事故が発生しても、一旦そこを無電圧にして事故を取り除いてから再び電圧をかけ、送電を再開します。この時は事故を取り除くために非常に短い時間無電圧、すなわち停電することになりますが、この影響はほとんどありません。

 台風による設備故障は、配電電柱、電線が主となります。これは一つひとつ人の手で修理をするため復旧に長時間を要し、停電が長期化します。

 日本では1987年に起きた首都圏大規模停電が最大の事故です。この電圧崩壊(送電系統の能力を超えて電力を送ろうとして、系統内の電圧を適正範囲内に維持できない状態)による大規模停電は、その10年ほど前にフランス全土で大規模な停電が起き、原因究明のための研究が盛んに行われていました。日本でも可能性が指摘されていましたが、バブル期で電力需要の伸びも急激で、設備増強が追いつかず、最終的に大規模停電に至りました。特徴は停電が、雷や地震などのきっかけがなく、自然に停電してしまったということです。

 次に国内における停電事例を説明します。
 まず、北海道のブラックアウトです。2018年9月6日、地震発生によって、道内で一番大きな電力を供給していた苫東厚真発電所の3台ある発電機のうちの2台が停止して周波数が大きく下がり、周波数を元へ戻すために、道内のかなりのエリアで停電しました。その後、周波数はいったん戻ったのですが、また周波数が下がりだしました。その原因は、深夜に地震が発生したことです。深夜に地震が発生したときの行動を考えると、まず照明をつけ、テレビをつけて状況を知ろうとします。そうすると、電力需要は伸びます。この時、発電所は全てフルで運転している状態で、そこで電力需要が伸びたため、本州側から北海道に電気を送って北海道の需要増加をカバーしていたのですが、送電容量の上限に達すると電力不足で周波数が下がりました。さらに負荷が増加し、最後まで運転していた苫東厚真の1号機が止まったこともあり、最終的にブラックアウトに至りました。

 設備的に問題はありませんでした。ただ、そのときの電力需要に対し、苫東厚真発電所が半分を供給していたのですが、その発電所が地震で全部止まってしまったため、発電量と負荷のバランスを取るために遮断する負荷の量が不足していました。

 もしこの地震が昼間に発生していたとすれば、大規模な停電は起こったとしても、ブラックアウトには至らなかったと考えています。昼間に地震が発生すると、工場であればラインを止めてチェックしますし、ビルなどではエレベーターを止め、鉄道もレールなどのチェックを行うため電車を止めるため、発生直後の電力需要は大きく下がります。また、昼間は多くの発電所が運転しているため、周波数の低下量も緩和され、結果、停電範囲も限定されます。一方、深夜に発生すると、電力需要が少なく、発電している発電所が少ないため、系統に非常に大きな影響を及ぼすことになります。

 次に、新座洞道の火災事故です。規模は大きくはありませんが、復旧を考えたときに重要な事故だと思います。

 2016年10月に地下のトンネル内を通るケーブル火災で、池袋周辺をはじめ都心の一部が停電し、西武線が止まりました。系統を切り替えて送電したため、10分程度で大部分のエリアは復旧しました。

 住宅での停電からの復旧は、家の中の照明がつけばわかります。しかし、高圧受電をしているビルなどは、復旧してもビル内部で人が安全を確認してスイッチを入れていかなければ照明やエレベーターなどは復旧しません。その操作のために停電が長く続いたイメージになるのです。ちなみに西武鉄道が1時間以上止まったのは、変電所の機器の安全を確認しなければ電気を送れないため、通常は無人の変電所に人が行くのに時間がかかったからです。

 次は、幸田碧南線事故です。碧南火力発電所からの送電線が、雷によって使えなくなってしまったものです。この時の碧南火力発電所の発電量が約200万kWでしたが、実際に発電が停止した量は395万kWになりました。この火力発電所以外のものが195万kW余計に止まってしまったのです。事故による電圧低下によって、周りにあった太陽光発電や風力発電が止まってしまい、結果、周波数の低下に伴う停電が発生しました。

 こうした事故を起こさないよう、再生可能電源側に電圧低下等で止まらないような装置を付けることを事業者に要請しています。

 最後に、2019年の台風15号による千葉県の停電、その前年に関西を襲った台風による停電はともに復旧に20日以上かかりました。停電長期化の理由は、倒木等で道路が寸断されること、かつ、電線が切れたことで、工事車両が入るための道路復旧と、一軒ごとの配線に時間がかかるからです。

 倒木で電線が切断される可能性をなくすため、電線を地中化する話もありますが、コストがかかりすぎて現実的ではありません。停電した場合に、家庭用のソーラーパネルの電気を自家消費する考えがありますが、蓄電池の設置とインバー ターの更新が必要になります。

 もし、台風15号と同じ規模、勢力のものが東京都心を襲ったらどうなるのか。停電の状況は大きく変わるでしょう。都心部ではマンションや大規模ビルは地下ケーブルで電気を供給しているため停電する可能性は低く、電柱で電気を送られている家庭では停電する可能性はありますが、千葉のように大規模広範囲にわたる停電はないと考えていいと思います。

 それでは、停電への備えです。
 まず、どのような災害を想定して考えるのか。例えば東日本大震災のような大災害の場合でも電気を使えるように考えるか、あるいは台風や雪による停電に備えるのか、災害の規模によっては、自分の住む家も損壊する可能性があるため、総合的に停電による被害を想定し備える必要があります。

 家庭では、まずバックアップ電源を準備する。ポータブル電源を置く場合には、燃料を準備しておく必要があります。医療機器を必要とする人がいる場合は、蓄電池を置く対策も必要でしょう。その場合、電気がなくなってしまうとどうしようもありませんから、ソーラーパネルなどと繋いでおき、常に充電できる形にしておかなければなりません。さらに、ガソリンの入手が容易な場合に限りますが、暑さをしのぐため自動車でエアコンをかけて車内で過ごし、ガソリンがなくなってきたら給油しにいくことも考えられます。電気だけで蓄える必要はなく、他のエネルギーも考えるということです。

 大規模ビル、例えば病院や公民館などでは、異なるエネルギーによるバックアップ電源を準備することが信頼性を高めます。例えば、ガスエンジンは都市ガスを使います。ガス管は地中を通っているため、液状化などにならない限り地震に対して強く、台風にも強いため、非常用として向いています。

 非常用電源としてディーゼル発電が一般に使われますが、停電が長期化した場合の燃料の確保も含めた対策が必要になります。

 こうした非常用電源は結果的にコストが高くなってしまいます。そのため、平常時も有効活用できることが重要です。例えば、バックアップ電源も平常時において電力コストを抑制できるように運用する。そうすれば高価なものであっても、ランニングコストを考えれば結果的に安くなります。例としてソーラーパネルと蓄電池の統合制御がありますが、ただ、蓄電池の電力を使い果たした時に停電になると役に立たないため、電気を残しておく対策も必要です。

 家庭であれ、ビルであれ、エネルギーを最も有効に活用するエネルギーマネジメントシステムが重要になってきます。最近は多くのものが商品化されています。

 ブラックアウト、あるいは大規模停電が発生しないように、電力システム側では様々な対策を実施しています。しかし、想定を超えるような大規模災害や系統を取り巻く状況変化を考えると、将来において停電が全く発生しないとは残念ながら言えません。その際に、停電の頻度と対策に要するコストを総合的に勘案した停電対策の実施が非常に重要になってきます。


     ※2022年6月22日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。