卓話


出合いはクリエイティブ

2021年3月24日(水)

デザイナー コシノジュンコ氏


 皆さま、こんにちは。2008年に一度卓話をさせて頂いています。一昨日緊急事態宣言が解除されて、明日は福島から聖火リレーが始まる、その間の今日。一日一日に重要な意味があると思っています。

 私は3年ほど前に文化功労者に選ばれました。社会に貢献するためにも頑張りなさいという勢いをいただいたと思っています。

 一昨年は、外国でショーをし日本に半分いなかったくらい大変忙しい毎日で、「一日ゆっくりした時がほしいな」と思っていたのですが、この一年、コロナによる自粛で、それが毎日になりました。皆さんはどうお過ごしだったのでしょうか。今日は私のうちわ話をしましょう。

 私は以前から、うちわに絵を描きそこに長年貯めていた言葉を書いたものを沢山持っていってパリで展覧会すると決めていたんです。でも、なかなか描く暇がなくて、こういう時に描かなきゃだめだと思いました。段々欲が出て、「コシノジュンコのうちわばなし」という本を出したらと考えるようになり、『大丈夫 コシノジュンコ56のDai-jyobu』というこの本に早変わりした訳です。56は年齢ではなくて「語録」です。

 「大丈夫」という言葉、一日何回使っていますか。「ダイジョウブ?ダイジョウブ、ダイジョウブよ」。日本人は暗号みたいにそれで通じちゃうんですよね。「大丈夫」の文字は全部、「人」が入った漢字です。日本の漢字は素晴らしい。私達はたった一人で生きているのではなくて、人のために生き、人のために仕事をしている。「人のために」が大きな目的です。結果、自分のためになるんです。56からかいつまんでお話をします。

 表紙の帯に「今が大切」とあります。昨日までは過ぎたことで、もう変えられない。今というのはこれから明日につながって新しい今が始まる、毎回毎回が今、毎日毎日動いていくのが人生であって、将来から見ると今日が一番若い。ここに来られたということは若い証拠です。一年後から見ると「あの時若かったな」、十年後になると「すごく若かったな」となる。

 若さとは健康です。健康であればなんでもできます。人のためにもできます。自分が病弱だと人に目がいかない。そうした意味で健康を維持することは大切なことです。年齢という字は歯で齢を表わします。美味しく食べる、噛んで食べる、唾液が出る。健康の素はよく食べ、よく噛むこと。歯が丈夫なことが若さの証拠であり、年齢を意味します。

 今、皆さん自粛されていて、こうした時だからできる、こんなありがたい時間をもらったと考えることが大事で、逆境とは思いません。今は力を貯める時だと思うんです。積極的に前に動くのではなく、何か始まる前の待機。ヨーロッパでペストが流行った後にルネッサンス時代が来たように、新しい文化を創造するために貯める時ではないか。

 この前、イチローさんとお会いしました。イチローさんの打ち方は、イメージをして、ぐーっと後ろに引っ張る。ゴルフでもそうです。バーンと次に勢いをつけて打つためにちょっと上で貯める。今は貯め時です。日本人はきちんとした性格の持ち主だから、一つの日本の生き方というものをしっかりと蓄えられたのではないかと思います。自分達の生き方を積極的にやっていかなくちゃいけないと思います。

 出会いはすごく素敵なことです。人との出会い、モノ、食、旅との出会いはクリエイティブです。出会って終わりではなくて、それが始まりになる。始まると何か目的が決まる。目的が決まるということは、方向性があって自分のやることが正しいかどうか、出会いによって様子が変わる。何気なく出会っているけれど、あの時出会ってなければ今はないんじゃないかというような、振り返った時にあの時出会ったから今があるという感謝になります。

 私の人生で一番印象に残る出会いはアサヒビールの樋口廣太郎さんです。テレビを見ていたら私が出て自宅マンションの吹き抜けに桜の木が一本置いてあるのが映ったそうで、不思議に思って「是非会いたいな」と直接電話をしきた。すごい勇気ですよ。大したもんだと思います。

 「なぜ私と会いたいんですか?」と聞くと「テレビで見た家を見てみたい」。好奇心ですよね。思いは見えないですから、言葉に出して行動するとしっかりと形になる。その思いは本気です。それからいろいろなことやお仕事を一緒にさせていただきました。

 樋口さんは実際に家を見たら、「ああ、そんなにお金かかってないな」と(笑)。私は青山という場所が自慢ですから、「空間にお金をかけています」と。言い訳ですが、私は生活感が嫌いです。家具もあまりないし、できるだけ整理する。デザインの原点は整理することなのです。モノが増えない努力をする。家に帰った時に「ただ今」と言わず「ごめん下さい」と帰る。そして、「ここの家こんなになってていいの」と人ごとで家を見る。

 樋口さんは文化的なものにとても興味を持たれました。文化は廃れないし、どんな時代になっても日本の特徴になる。皆さんも経済的に素晴らしい方ばかりです。文化のスポンサーになっていただくと日本ももっともっと値打ちのある素晴らしい国になると思います。右手と左手、両手でバランスをとってやっていく。すごく大切なことだと思います。

 対極の美、右と左の全く違う方向を一つにバランスを取ることが私自身のコンセプトです。例えば審査員になってどれを選んでいいかわからないという時、自分はこれを好きだけれど世間はどう見るんだろうと、違う方向からもう一回見てみるバランスです。常に2つあって、それが一致すれば満点という考え方でいつもいます。

 私は去年の2月にパリから戻ってから外国に行っていません。こんなに行けないのは初めてです。のんびりと帰国したら、一週間後にはフランス、イタリア、ロンドンがパニックになった。この早さにはびっくりです。同じ悩みで世界が一緒になったことも人生で初めてです。これをマイナーに捉えずに、こんな時にどうするのかと考えます。

 私もオリンピックに関与していますが、1年延びて段々ややこしいことになってきて、ちょっと先が見えません。これも試練です。せめて日本人はここでどんなことをすればいいのかと思います。外国に行けないし外国からも日本に来られない中で何をすればいいのか。日本人は意外に日本のことを知らないので、今は、日本人が日本を知る時で、日本のいいところを若い人達が勉強する時。それが蓄える時だと思うのです。

 私はこのタイミングでお能とモードの共演をしました。実はそれまでお能にあまり興味はありませんでした。

 5年ほど前に京都で琳派400周年があり、その前夜祭でショーをやることになりました。400年前ってどんなことだったんだろう。メカニックなものは一切なかったのだから何ができるか。お能を見せていただいて、これはすごいと感じました。700年もの伝統芸能は、世界にもあまりないと思います。観世清和家元とお話をし、700年も続けてこられたことは常に新しいことに挑戦してきたからだということがわかりました。それが、出会いです。

 日本の本物に出会うことが私にとっては新しい。お能から見るとファッションは洋の世界で全く違う。コラボレーションすることがすごく新鮮です。GINZA SIXの能楽堂で、プロジェクションマッピングをやり、モデルに足袋、摺り足、お囃子でショーをやりました。初めて能衣装を作らせていただきましたが、本気でやると違和感はありません。すべてがいい経験で、お能の方々にとってもあそこでファッションショーを行うなんて思ってもみないことだったと思います。私は全く違う職業ですから、表舞台にある二本の柱のうち前にある一本を洋服が柱にぶつかってしまうため「これ取っていいですか」と聞きました。すると「いいですよ」。柱を取るのは革命的なことですが、ダメ元で言ってみたら実現したのです。

 それは、このコロナの真最中、去年の11月です。3回程延期になりましたが無事公演できました。もっともっと日本の文化を大切にして若い人達に継承する使命があると思っています。

 最後に、日本はアクシデントが多いですがそれに動揺しないことが大切だと思います。どんなことがあっても平然として「焦らず慌てずあきらめず」。そして、カ行。常に「感謝すること」。ここに今日いることにまず感謝しましょう。感謝すると前に進みます。常に「希望」。ビジョンを持って進むと間違いない。何があっても「くよくよしない」。平然と日本人の素晴らしさを見せましょう。「健康」でないと何も出来ません。毎日健康を維持して、思うだけではなく「行動する」。

 明日から聖火リレーが始まります。実は私も出ます。走ること自体を目的とするよりも、「私は出るんだ」という意識を大切にして、週に2回ジムに行ってプールやマシンで走ったりしています。

 「運動」は運が動くと書きます。人間は動かないと生きている意味がない。健康を管理するには、食べることと身体を動かして両立することだと思っています。