卓話


スポーツと礼儀で子供は変わる
―礼儀正しさのDNAは残っている、
        マナーキッズプロジェクト12万人の軌跡―

2015年3月11日(水)

公益社団法人マナーキッズ®プロジェクト
理事長 田中 日出男 氏


 マナーキッズプロジェクトとは、スポーツ・文化活動を通じ、日本の伝統的な礼法を体験し、<体・徳・知>バランスのよい子供を育てるものです。

 このプロジェクトをスタートさせたきっかけは、私が会社勤めをしていた時に遡ります。人事労務の仕事をしていた関係から、従業員同士が挨拶をしなくなった、あるいは上司が挨拶したら部下がするといったことに問題意識を持ち、工場内に「挨拶通り」を作り、そこでは、「明るく、いきいき、さわやかに、常に挨拶しよう」ということを行いました。どうしてこのようなことになったのかと不思議に思っていた時、近くの小学校を通ると、先生と児童が挨拶をせずに校門に入る、あるいは校長先生が挨拶をすれば児童が仕方なく挨拶をするような姿を目撃し、挨拶する習慣がなくなっていることが原因ではないかと思いました。そこで、平成8年に母校の早稲田大学庭球部OBに働きかけ、現在と同じようなプログラムの早稲田大学庭球部小学生テニス教室を開始しました。

 会社をリタイア後、平成15年に財団法人日本テニス協会のボランティア活動をすることになり、そのご縁で平成16年7月にマナーキッズテニス教室の実験を東京都中央区で行うことになりました。それがNHKの番組で取り上げられ、協賛企業が集まり、平成17年4月にテニス協会のプロジェクトとして認められました。平成19年6月には他のスポーツ・文化活動にも広げようとNPO法人を設立し、昨年10月に公益社団法人に移行しました。これまでに47都道府県で12万5000人を超える幼稚園児、小学校児童がこのプロジェクトに参加し、34都道府県310小学校他で授業として採用されています。

 マナーキッズテニス教室では、まず、小笠原流礼法の鈴木万亀子総師範による正しい姿勢、お辞儀・挨拶の指導を行います。足を揃えて丹田に力を入れ、胸にいっぱい空気を入れて、「よろしくお願いします」と言ってからお辞儀をします。お辞儀は、頭を下げるのではなく、腰を折って心を下げます。お辞儀が終わったら、やさしい顔で相手の顔・目を見ます。この後、ショートテニスを通じて正しい姿勢、お辞儀・挨拶を繰り返します。そうすると、初めは姿勢が悪く小さい声で自己紹介していた児童が、90分の授業が終わる頃には見違える程に姿勢が良くなり、声も大きくなります。

 今まで指導を受けた子供達すべてがそうなりますので、まだ日本人に礼儀正しさのDNAは残っていると確信しています。これをテニスに限定せず、日常の学校生活でも正しい姿勢を身に付けられるよう、「マナーキッズ体幹遊び」を導入しました。これは東京都教職員研修センターと早稲田大学スポーツ科学学術院が開発したもので、小笠原流礼法の指導の後に、授業の始めと終わりの挨拶、学校生活(体育や保健体育の時間、休み時間等)における身体活動量の増加などを通して体幹を鍛えます。

 それから、子供達の正しいお辞儀・挨拶の持続は、家庭、学校でのフォローにかかっているため、「マナーキッズ調べ」というものを行っています。明石要一千葉敬愛短期大学学長のご提言によるもので、幼児期、小学校期に身につけるべき言葉、正しいお辞儀・挨拶、歩き方・姿勢、生活、社会規範を明確にし、それに向かって、本人、保護者、教師が一体になって取り組みます。目標設定や評価を行い、基準点を超える場合は表彰します。  マナーキッズ教室では、子供のプレー中に、小笠原流礼法鈴木万亀子総師範が保護者に対し「家庭内の躾」という講話を行います。まず、「朝起きて、誰が一番先に声をかけますか」という質問をします。ほとんどのお母さんが、「○○チャンおはよう、すぐに○○を用意しなさい」などと言いますが、そうではなく、挨拶とは目下から目上にするもので、子供から親に対して、「おはようございます」と丁寧な言葉で言わせなさいと指導します。「朝に見て 昼には呼びて 夜触れて確かめおかねば 子は消ゆるもの」と昔の人の言葉があるように、朝、母親は、料理等の手を止めて子供の顔を見て「おはよう」で返し、子供の調子を点検する必要があるという話をします。

 次に、「食卓では子供の髪をさわらないこと」を話します。今、電車の中で食事をしたり化粧をしたりする風景が当たり前のようになっています。公的な空間と私的な空間の区別がつかなくなっている一因が、そうしたところにあると思われるからです。  子供にとって母親は愛情、父親は尊敬の対象です。母親には、夫の悪口は言わないで下さいと言います。「『遅いわね、何をしているのかしら』と言っていたら、『お父さん大変ね。こんなに遅くまで。私ならこんなに遅くまで働けないわ』と必ず子供の前では冒頭に言葉を添える。母の唇からは、美しい言葉以外発しない、と決心なさって下さい」と。そうすれば子供は父親に尊敬の念を持ちます。

 さらに、子供を学校へ送り出す時も、玄関を出て見送ることを話します。5、6歩歩いたところで、「行ってらっしゃい、気をつけて」と声をかけるだけで、子供は母親の温かい愛情を感じて出かけていきます。そうした愛情豊かに育った子供は、ストレスに強く、いじめにあっても耐える力が身につくと聞いています。

 今、日本の幼稚園・保育園では、園長先生と園児の間に目上、目下がなく、「みんながお友達」です。これは、戦後、日本がアメリカの教育理論を取り入れ、園長や先生と園児は対等であると教育してきたためです。マナーキッズ教室で目上の指導者に姿勢を正して挨拶するように指導すると、園児は正しい挨拶、礼儀作法を身につけます。

 プロジェクト・メンバーの一人である筑波大学大学院の大森肇教授は、ハツカネズミの実験結果から、「母の愛は脳を育む」と述べています。幼少期に母親の十分な愛情を受けたネズミは成長期に行動が落ち着くこと、ストレスに抗う力をつけること、高齢期になっても認知機能が低下しにくくなることを学術的に証明しています。大森教授は「幼児期の言語機能に及ぼす模倣運動の影響」という研究もしており、3才の保育園児で週3回、模倣運動(真似をすること)するグループとしないグループでは、言語機能の発達が違うとのことです。

 「マナーキッズ大使」の海外派遣も行っています。文部科学大臣杯マナーキッズショートテニス全国小学生団体戦を開催し、試合結果のみならず、マナー・ルールの順守度、感想文の内容に重きを置いて、1大会4名程度の小学生を大使として選考します。平成22年まではイギリス・ウィンブルドン、平成23年からはアメリカ・ニューヨーク州フロストバレーのサマーキャンプに派遣し、現地で国際交流活動を行ってきました。  マナーキッズショートテニス教室を媒介とした体育・道徳融合授業は、体験を通して具体的に正しい姿勢、お辞儀・挨拶の仕方を体得する点が評価され、平成22年度に品川区が全国で初めて予算化して取り入れました。品川区の小学校から学力向上につながった事例が報告されています。

 東日本大震災復興支援事業については、今後は福島県の幼稚園・保育園、小学校での開催に注力したいと考えております。といいますのは、コラボしている団体から次のような報告書を頂いたからです。「神経系統は5歳頃までに80%以上の成長を遂げ、12歳で90%以上になります。この時期は、様々な神経回路が形成されていく一生に一度の貴重な時期と言えます。福島県の各地域では、この大切な時期に、子供の屋外活動が以前のように自由に行えなくなっており、神経系の発達・発育の問題がより顕著になっていることを痛切に感じています。すなわち、注意力が散漫、感情も身体も自分でコントロールできていない、できないとすぐにあきらめてしまう子が多い等です。」

 現在、プロジェクトの運営主体はシニア中心ですが、次世代育成の観点から、小学校・幼稚園教諭、保育園保育士志望者を中心に学生の参加を呼びかけています。

 学校現場は保守的な体質があるようで、新しいことに取り組むことに躊躇があるようです。ロータリークラブのメンバーは当該地区で影響力のある方ばかりで、そういう方のご助言があれば、学校側は受け入れ易いようです。皆さまのご助言・ご尽力を切望します。  それから、このプロジェクトは、全て企業・個人よりの寄付金と正会員・賛助会員の会費、年間約2,600万円規模で運営しています。公益社団法人移行を機に、法人正会員等支援者を増やし、財政基盤を強固にしたいと考えています。遺言、相続などによるご寄付も含め、ご支援をお願い致します。

 我々の活動は、全国で800数十万人いる小学校児童、幼稚園園児のうちのほんの一部に参加してもらったのに過ぎず、「太平洋のゴミ拾い」と言われていますが、「琵琶湖のゴミ拾い」と言われるようにしたいと考えております。東京オリンピック・パラリンピックを契機にソフトレガシー(ソフトの遺産)の構築が検討されております。その一つに「一校一交流運動」(公共施設を拠点とした地域課題解決と交流促進事業)があります。我々は、「ヘルス&マナーコミュニティ」という商標登録を取っており、それとリンクさせてはどうかと提言しております。一中学校の学区をモデルに全幼稚園・保育園、小学校、中学校においてマナーキッズ教室を開催する、また清掃活動、体力増強運動、減塩運動、資源回収作戦、交通マナー向上運動等を展開し、マナー・・・挨拶の質、量、交通事故件数、ゴミ収集ルール遵守度、ヘルス・・・体力測定、QOL評価、病欠日数、コミュニティ活性・・・愛着度、地域イメージ、環境負荷数値の減少等経時変化を測定するものです。

 是非、ロータリークラブの皆様が全国において主導的な役割を担って頂きたいと思います。