卓話


小泉内閣における社会保障改革について

4月7日の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです

日本経済新聞社 論説委員会
論説委員
渡辺 俊介 氏 

昨年の12月に公表された最新のデータによりますと,2001年度の社会保障費は,総額で81兆4000億円あまりという大変な巨額でございます。国家予算が82兆円ですから,ほぼそれに匹敵する金額です。

社会保障の金額と国家予算とが,どういう関係にあるかといいますと,国家予算の一般会計の中の20兆円は社会保障費に振り向けられています。残り60兆円は,言うまでもなく私たちが収めた年金・医療・介護・雇用・労災の保険料で賄われています。

81兆4000億円が何に使われているかというと,42兆円あまり(52.3%)が年金,全体の半分強を占めます。医療費が26兆円余(32.7%)で,全体の1/3弱です。患者さんが窓口で支払う医療費は省かれていますから,国民から集めた税金と保険料から支払われた医療費であります。

年金で52.3%,医療費で32.7%,合わせて85.0%です。残りは15%しかございません。これが,医療,年金以外のすべての社会保障でして,例えば2000年度から始まった介護保険,あるいは障害者の方の福祉,あるいは児童,生活保護,雇用保険,労災保険などの全体が12兆円あまりでございます。

日本の社会保障制度が,いかに年金と医療に偏っているかが分かります。日本がお金を使っているわりには,世界的に福祉大国という評価を得ないというのは,このへんに原因があるのかなと思っております。

社会保障といいますと,昔は一部の恵まれない方々への施策とみられてきました。しかし,今から30年ほど前の1975年の高齢者向けの費用は全体の32.9%でした。残りの2/3以上が障害者,生活保護,母子家庭,児童手当などの保障に振り向けられていました。ところが老人人口が年々増えてきまして,2001年での高齢者向けの費用は全体の68.7%になりました。約7割が老人向けの社会保障です。

小泉内閣は,社会保障の構造改革を必要とする理由として次の3点を挙げております。

 1つは,何と言っても財政的な問題です。2つめは医療選択の幅です。3つめは成長産業として期待される医療・福祉の育成です。

まず「財政」ですが,今の81兆円あまりの社会保障費用は税金と保険料で払うしかない。001年度の国民所得は370兆円あまりです。そのうちの81兆円は全体の22%に相当します。これからは,ますますお年寄りが増えます。今,高齢者は2400万人を突破しました。今後,30年間にわたって,65歳以上の人口は実増で毎年60数万人増えていきます。30年後の高齢者人口は4200万人になる計算です。

厚労省の推計では2025年度の社会保障費用は176兆円,国民所得を(経済成長を実質1.9%伸びていくとして)560兆円とみて,実に,所得の31.5%という数字です。

財務省の財政制度審議会は現行制度の見直しを言っております。厚生労働省の社会保障審議会は他の無駄な金を削減するのが先だと言っております。経済財政諮問会議は,財政を健全化していくため,財政赤字を含む国民の負担率を50%程度としつつ,
政府の規模を縮小すると言っています。

いずれにしても,年金と医療を中心として相当に削減しなければいけないということでございます。

2番めの「選択の幅」というのは,小泉内閣になって強く言われ始めたのですが,要するに年金も医療も福祉分野も,公的保険でやろうとするから,いろんな意味でマイナスがあるのではないか。医療では,国民皆保険制度は平等でよいが融通が利かない。医療の選択の幅を設けて国民の多様なニーズに応え,かつ公的な財政も節約できるようにする。保険以外の自由診療も、もっと増やしてよい。

年金では,公的年金で月20万円を保証するには無理がある。例えば,個人年金や企業年金を上乗せするという創意工夫を考える。福祉では,役所の措置制度という発想を改め,利用者と施設との自由契約と選択を認めれば,よりニーズに応えられる,というものです。

3番めの「成長産業としての医療・福祉」とは,規制だらけの医療・福祉分野では自由に競争ができない。商社だろうが鉄鋼会社であろうが,病院や保育園,老人ホームの経営ができるような格好にもってくることによって経済成長が期待できるのではないか。また,医療・福祉は雇用吸収の場であるから,雇用を創出するという意味で,医療・福祉を自由競争にしてはどうかというのであります。

この3点から社会保障を構造改革していこうというのが現内閣ですが,いろんな対立があって,なかなか進んでいません。しかし,政府与党のスケジュールは,2004年度には年金改革,2005年度には介護保険,2006年度には医療改革をやろうというのであります。

年金で,いちばん大きな制度である厚生年金の加入者は3400万近くですが,現在の年金水準で月額23万円あまりは,現役男子勤労者の平均可処分所得の59%に当たります。この割合を所得代替率と呼んでいます。

これを維持しようとすると,今の保険料,年収の13.58%を2025年には2倍近い26.2%にしないといけない。

出生率は1.32まで下がっております。見通しとして1.39までにしか回復しないといわれています。一方で高齢者の数は増えるところにもってきて,平均寿命がさらに伸びる。国立人口問題研究所の推計によりますと,2050年には,女性が平均で90歳近くまで,男性が平均で81歳近くまでという数字を出しております。年金の負担はますます増えます。政府与党は,その結果として,上げていく厚生年金の保険料の上限を18.30%までとする,年金額は所得代替率の50%を維持する改革案を提出しています。

民主党はそれに対して,抜本改革というにふさわしい案として,20歳以上の全国民が所得に比例して入る所得比例年金に一本化するという案を出そうとしています。所得のない人や低所得者には消費税などの税金によって低所得者向けの補足年金といった手当をするというものです。
 
 これは全国民の年金一元化ですから,公務員も多分含まれていると思います。

介護保険についても,2005年度にやることが法律で決まっております。

介護保険が2000年4月にスタートしましたが,要支援・要介護1の認定者の伸びが2倍になりました。当然,保険料,税金の見直しが必要です。現在,介護保険利用者は287万人。内訳は,在宅が214万人(74%),施設が73万人(26%)。給付費は,在宅が45%,施設が55%で,施設の方が金がかかる状態を見直さないといけません。

 介護保険料の徴収は現在は40歳以上ですが,厚労省が検討している案は20歳からというものです。しかし,そうすると,介護対象者も20歳からということになり,その面で対策も必要です。

医療保険の改革については,早ければ2006年度,ものによっては,2008年度という計画で,政府,自民党中心にして進めようとしているのですが,そのキーワードは「財政の立て直し」と「患者本位の医療」です。

医療保険財政は火の車です。組合健康保険では保養所を売ったり付加給付をやめたりしているところが大半です。政府管掌の保険も赤字です。健康保険財政の立て直しをしなければなりません。

もう一つは,患者本位の医療です。確かに日本の医療というのは世界一です。しかし,患者本位になっていない。そこで,特に,患者に対して,どのような医療を提供-するかという議論が進んでおります。

 つまり.財政問題と医療提供体制の2つで大改革をしなければいけないといっているのですが,これまた,財政面では,経済財政諮問会議,財務省はもっとドラスティックに抑制しろと言いますし,厚生労働省は診療報酬体系の合理化や保険制度の統合再編を言っております。官邸側は株式会社を導入して競争原理を導入すると言い出しております。

社会保障を削ることも必要でしょうし,民間参入も必要でしょうが,国税収入が42兆円,保険料が58兆円というのは異常な姿でございます。つまり,増税できない分だけ保険料を上げて来た。その結果として税金をはるかに上回る保険料になった。ある学者は,保険料を下げれば労使にとって減税になると言います。これからの保険料はこれ以上,上げられないとなるならば,当然,税金を増やすしかない。そこで,消費税の引き上げ論議が盛んになってきたと言えると思います。

社会保障における保険料と税金をどのように負担するかという議論なく保険料を上げてきたのが,今こんな状態にきているということでございます。私たちも社会保障の在り方をもう一度考えなければいけないと思います。

    












例会訪問
4月7日(水)の例会に2001年度国際ロータリー副会長 Gary C. Huang氏が出席し、挨拶をなさり、玉村パストガバナーが通訳をされました。































K.Huang