卓話


地域産業の強みを活かした三条市立大学の学び

2023年2月1日(水)

三条市立大学
学長 アハメド シャハリアル氏


 私は拓殖大学工学部で勉強していた時期に、1992年から94年まで、ロータリー米山奨学生に選ばれました。私のカウンセラーは東京八王子ロータリークラブの故・福田秀夫さんでした。日本に来て間もない頃で、奨学金が大変ありがたかった上に、すぐに日本社会に足を踏み入れることができ、とても貴重な経験になりました。2年間、2か月に1回例会に出席し、卓話しながら、ロータリアンの皆さんと仲良くさせていただきました。ロータリー米山奨学金が他の奨学金と大きく違うのは、社会で活躍されている方々とたくさん出会えることです。この出会いが私の経験をより豊かにしてくれています。

 三条市立大学は2021年4月に開学しました。開設計画は2015年から始まりました。魅力的で高度な教育の機会を求める若者が新潟県から出ていく状況の中で、当時の国定勇人三条市長が魅力ある実学志向のものづくり大学を設置することを提案し、私はそこから関わりました。

 私は日本の大学で学んだ経験から、「東京のような大都市の大学と地方の大学は役割が違うのではないか。しかし、日本の地方の大学は、都心の大学の真似をしているだけで、その役割を担っていないのでは」と感じていました。そのため、この大学開学にあたって、地域産業の持続的発展が必要なこと、地域産業の変化に合わせてフレキシブルな対応ができる人材育成が必要だと提案しました。「地域の力を活かす」ことは、私はとても当たり前だと思うのですが、周りはユニークなプログラムと称してくれています。

 本学が立地している燕三条地域は細長い新潟県の県央に存在します。三条市が出資しており、隣接する燕市と2市全体を教育研究のキャンパスとして、工学部技術・経営工学科という1学部1学科、1学年80名の定員で運営しています。

 燕三条地域にはあらゆる金属加工技術があり、中小企業だけでも1000社を超える全国有数の産業クラスターになっており、アウトドア、建築建設、自動車産業などあらゆる分野の部品作りに貢献しています。全てが成熟市場のため、リーマン・ショック、コロナショック、ウクライナショックが起きてもびくともせず、ものづくりを続けています。

 課題は、今のようなメガトレンドです。産業構造が大きく変わってしまうような外部的要因、例えば、AIやIoTなどのDIGITAL、カーボンニュートラルや再生可能といったGREEN、あるいはリスキリング、ダイバーシティ、ヘルスケアといったHUMANという波が来たときに、今の燕三条では対応できないと認識しています。そのため、今から準備をして人材を育成し、あるいは既存の人たちの心を変えていこうという取組がこの大学になります。

 学び方は生き方です。私の日本での35年間を含め生まれたときから考えると、理論からの学び、仕事などを通じた実践からの学び、失敗からの学びがあり、経験(失敗)から学修したことが最も多くあります。本学では理論と実践から学びを作り、失敗からの学びは、学生が将来的に社会に出て自らやればいいと考えています。

 本学設立の目的は、地域や企業と連携してものづくり技術に関する卓越した教育と研究を行っていくことです。目的達成のため、「高度ものづくり人材の育成」「地域産業のサスティナビリティに貢献する」という二つのミッションを掲げています。

 人材育成の過程において様々なテクノロジーが生まれるため、それらを用いて新しい事業を創出し経済的な貢献、あるいは雇用の創出を通じたサスティナビリティへ貢献すること、そして人材そのものも地域社会に貢献するという考えです。

 未来は必ず産業構造が変わるため、選択肢を増やした形でこの学びを展開したい。ただ、むやみに選択肢を増やすのではなく、しかるべき時期に正しいものを選択できる能力とスキルを備えた人材を育成したいと考えています。それから、その時々の先を歩くことです。

 こうしたことを踏まえて、私たちがたどり着いたのはイノベーションです。従来のものづくりとの違いは一つしかありません。従来のものづくりはメーカー側の目線で作ることで、イノベーションのものづくりとはお客様目線によるものです。お客様の声を聞くエンジニアの育成が一番大事になります。

 イノベーションは「テクノロジスト」「テクノロジー」「ビジネス」のネクサス(つながり)で起きます。テクノロジストと呼ばれる人、その種になるテクノロジー、耕すためのフィールドが必要になります。燕三条には立派なフィールドがありますから、テクノロジストとテクノロジーだけでどうにかしてネクサスを作ります。

 イノベーションにおいて大事なのは実学志向の考え方で、それは、理論と経験の融合による学びです。

 本学では、まず理論的なことを学び、燕三条地域でその実践を施します。その実践と理論を融合するものを学内でプロジェクトとして行い、4年間で創造性豊かなテクノロジストの育成を目指します。

 まず、垣根を超えた工学です。今、国内の大学の工学部は電気工学、電子工学、機械工学という垣根がありますがイノベーションにおいてこの垣根は邪魔になるため、垣根のないさまざまな領域をバランスよく融合させるアプローチで幅広い工学知識を施します。知識だけでは価値がないため、価値を見出すためにテクノロジーの最適なマネジメントも勉強します。この二つが自然科学と社会科学の融合による学びになります。

 ネックになるのは創造性です。大事なのは知識を増やすことではなくて知識を使うことですから、経験を施すと知識と知識を融合して新しい知識を作ることができます。ここまで4年間で施します。

 この後、社会に出て様々な刺激を受けて、立派なものづくりに挑戦できると思っています。

 大切なのは経験学習です。様々な知識を勉強しながらいろいろなことを考えさせ、それを経験させ、それから振り返るという学びのサイクルを全学生が必修します。これも大学と企業で、座学と経験学習を通じてやってきます。

 もう一つ大事にしているのは、このイノベーション全体のプロセスを4年間の学びに取り入れていることです。俯瞰力を養うためです。

 イノベーションは、調査、技術開発、実用化の3つのフェイズに分けることができます。イノベーションにおいて大事なのはお客様の声を聞くことですが、実はお客様は客観的なものの言い方はしません。暑い、寒い、柔らかい、硬いなどいつも定性的です。技術開発者は客観的ではないお客様の声を聞き客観的なことに変換して技術開発をしなくてはいけません。これまでの日本の工学部での学びは客観的なものを用いて工学を深堀してきましたが、私たちの大学では、マネジメントと融合することによって、イノベーションの調査フェイズで客観的ではないお客様の声を変換する力を身に付けさせたいと思っています。

 そして、調査、技術開発、実用化という3つのフェイズを4年間で企業と連携しながらこなしていきます。

 学修方法としては、1年生は基礎を勉強しながら地元の企業を広く浅く見学します。包丁を作るところから高度なものづくりまで見学し、様々な刺激を受けることが狙いです。

 2年生に上がると、専門の基礎を学んで、中期の企業実習に行きます。1人の学生が3つの会社で2週間ずつ経験学習し、アイディア作り、技術開発、作ることを経験します。この2週間の中で、自分が何に向いていて、何が絶対嫌なのかを見てきます。

 3年生は専門の勉強をしながら16週間の経験学習に行きます。その時は、自分はこれがやりたいという所で過ごせるような学びを展開します。ここまで必修です。

 4年生は、ほとんどの卒業研究が企業との共同研究になると思います。技術開発や課題解決、新しい事業を作ったりすることになるでしょう。これからそれが楽しみです。

 この実現のために現在、地元の中小企業中心に122社と連携しながら調整を進めています。

 学ぶのは機械工学が主軸で、加えて知的財産のマネジメントから技術開発、流通マネジメント、マーケティングマネジメントまで、マネジメントの基礎から学年が上がるにつれて専門的になるカリキュラムを用意し、129単位の学びを4年間で展開します。

 大切にしているのは学ぶタイミングです。理論的知識を施した後にプロジェクト型で経験学修を行う。意味のある学びになるよう気をつけながら全体の学修を設計しています。 また、学内に地域連携キャリアセンターを作り、燕三条の産業クラスターと大学の教育研究活動を橋渡ししてもらおうと考えています。

 大学が始まって2年が過ぎようとしています。付加価値の部分になりますが、地元にあるスノーピーク社の寄附講座が来年度から始まります。学生80人の中から4、5人を選び、社会を牽引するビジネスリーダーを育成するための講座です。同社の山井太社長と2人でスーパーバイズしながら貴重な人材を磨いていこうと考えています。

 その他にも地元の企業から様々な支援をいただいて奨学金が充実し、給付型奨学金を各学年で20名ずつに給付できるようになりました。

 昨年4月には岸田首相が私たちの大学を視察され、この度の第211回の国会の施政方針演説でもその時のことに触れられ、喜びが絶えません。

 大学は今年で3年目を迎えます。「山椒は小粒でもぴりりと辛い」という諺がありますが、私は犹顎キ瓩鬮犹鮎鬮瓩肪屬換えて、味のある大学を作っていきたいと思っていますので、皆さまに見守っていただきたいと思います。


     ※2023年2月1日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。