卓話


伝統建築と森林業

2018年11月14日(水)

諸戸林業(株)代表取締役社長
諸戸清光君


 昨今、日本では観光立国を目指し、交通、宿泊をはじめとしたさまざまな整備が行われています。日本の大きな魅力の1つである伝統建築の保存と森林業の関わり、特に檜を中心にお話しいたしますが、まず現在の基本的な森林業の現状をお伝えいたします。

 一般的な森林業では、1haあたり3,000本程度の植林を行い、その後、下刈り、枝打ち、間伐、主伐をしてまた再植林をする。これが1つのサイクルです。これを約50年程度かけて行います。

 我が国の木材生産量は昭和55年の約1兆円をピークに現在では約2,300億円、木材単価は檜で1屬△燭76,400円、現在は17,300円と4分の1程度まで下落しています。

 以前は、住宅用建材として出荷される迄の保育管理期間であっても収入を得ることができましたが、現在では一般住宅向けの樹木が育成されるまでの50年間殆どの収入がありません。その結果1haの人工林を50年間育成する費用は全国平均で約230万。一般住宅に利用される50年生を主伐して得られる収益は樹種にもよりますが約90万しかありません。

 また、毎年の収入を得るためには最低50年間のローテーションが組める程度の森林面積を管理する必要があります。しかしながら我が国の森林所有構造は、所有面積10ha未満の林家が全体の9割を占め、50ha以上の所有者の割合は1.4パーセントしかなく小規模・零細です。管理面積が少ないとローテーションが組めないだけでなく、施業コストも増加します。

 人材面でも森林業従事者は昭和55年に14万人、平成27年では4万5,000人と減少傾向です。それに対し、65歳以上の高齢化率は、平成27年で25%と全産業平均13%と比較すると高い水準です。所得面も全産業平均414万に対し305万と25%程度下回っている現状です。 高齢化等により世代交代の必要性にせまられる中、林業の採算性が悪化してきたこれまでの経験から経営意欲・所有意思のない森林所有者が増加しています。これらの課題を克服すべく林野庁を中心に様々な施策が試みられています。

 本日のテーマである伝統建築に用いられる100年生以上の高品質な木材の育成を目指す森林業はさらにその先にあります。伝統建築向けに利用される高級な木材は細胞壁が緻密で均一であることが大切です。緻密で均一であることにより変形の少ない、しなやかな建材を作ることができます。通常の3倍弱、1haあたり約8,000本の植林を行い、光量を調整し成長をコントロールすることによってこのような高品質な樹木を作ります。

 先に述べさせて頂いた通り、一般住宅に利用される木材は50年生。一方、伝統建築向けの木材ですと育成期間が最低でも100年は必要となります。歌舞伎座の舞台に使われる檜は約100年生、清水寺の舞台に使われる檜は約200年生、法隆寺の五重塔の真柱に使われる檜は約400年生です。1ha8,000本から始まり100年生にまで育つ間には間伐作業を繰り返すことによって1ha約300本程度まで減少します。そこからが伝統建築向けに使える建材となります。

 高林齡の檜は構造材だけではなく「檜皮」という屋根材を採取することができます。檜皮も単に檜の樹皮を採取すればよいというものではなく、一度目の樹皮、この樹皮を「荒皮」と呼びます。荒皮を採取した後、10年程度の時間をかけて再生成されたものが「黒皮」と呼ばれ高品質な檜皮となります。檜皮葺の建物で重要文化財の指定を受けているものだけでも約700棟あり、700棟の維持だけでも年間約3,500屬良替えが必要になっています。また、全国の檜皮葺の建物の葺替えに必要な森林面積は年間約3,000haと言われています。

 素材の育成のみならず、高品質材の管理者の育成も課題です。先に述べさせて頂いた通り通常の管理者も不足している現在、高品質材を扱える職人は大変貴重です。檜皮を採取する現皮師も少なくなって来ています。また、採取した檜皮を屋根として葺く職人も少なくなっており、文化財を維持していくシステムの再構築が重要です。