卓話


社会を変える音楽の力

2017年9月13日(水)

駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使館
特命全権大使 セイコウ・イシカワ氏


 駐日ベネスエラ大使として13年目に入りました。長いです。ベネスエラの外務省でも異例です。最近、本国では帰ってほしくないのかなとちょっと心配になってきたところです。13年にもなりますが日本語はまだ不勉強で、話の中でミスがあるかもしれませんが、お許しください。日本語は難しいです。この間、妻に「日本語には多くの同音異義語が多くてよく間違える」と話したら、「どういうことなのか?」と言われたので、「時々ね、囚人と主人を間違える」と言ったら怒られました。そういうことがよくありますので、申し訳ありません。

 ベネズエラは日本から見て地球の反対側で遠いですが、飛行機ではたった1日で行けますので、どうぞ皆さんお越しください。

 南米の北半球にあり、恵まれた環境にあります。アマゾン地域、カリブ海、アンデス山脈の影響を受け、非常に融合した文化を築いています。ヨーロッパ人、世界各国から移民してきている人も多く、メスティーソと呼ばれる混血の人が6割です。私もメスティーソですが、見た目は100%日本人です。

 ベネズエラといえば、最初に思い浮かぶのは石油だと思います。産油国であり、世界一の埋蔵量を誇ります。それはサウジアラビアを超え、アメリカの専門家は以前考えられていた原油の2倍の量が埋蔵されていると推定しています。さらに第一の石油市場国のアメリカに、船でたった4,5日で運べます。

 今日はベネズエラについて3つ紹介します。
 最初は大自然です。カリブ海に面した長い海岸線があり、130以上の島があります。面積は日本の約2.5倍です。西部にアンデス山脈があって5000メートル級の高い山があります。ピコ・ボリバルには、世界一の高さで走るケーブルカーがあり、なおかつ世界最長12.5キロもの距離を走ります。

 さらに西に行くと、マラカイボ湖があります。南米一の広さの湖で、長野県と同じ面積です。最近は、雷で知られています。数年前にギネス記録に世界で一番雷が落ちる場所として登録されました。一時間に約280の落雷があり、NHKの「グレートジャーニー」という番組でも紹介されました。雷が発生するとオゾンも発生するそうで、環境に役立ちます。 南部は私の実家があり、私のふるさとです。ギアナ高地があることで、日本でよく知られています。テプイ(テーブル・マウンテン)という絶壁の台地状の山が60以上あり、一番広い山はアウヤンテプイと呼ばれ、頂上の面積は東京23区がすっぽり入るぐらいです。滝がたくさん流れており、その一つがエンジェルの滝という世界最大の滝で、東京タワーとスカイツリーを重ねた高さがあります。アメリカ人の探検隊ジミー・エンジェルがこの周辺を飛行機で飛んでいて、アウヤンテプイに着陸したものの離陸できなくなり、妻とガイドと山を降りてきたことで有名になったので、エンジェルの滝と呼ばれています。

 第二に紹介したいのはチョコレートの原料であるカカオ豆です。ベネズエラ産のカカオ豆はカカオ豆の王様と言われるほど有名で、最近日本の女性に大人気です。なぜこれほど有名になったのかと言えば、ポリフェノール、人を幸せにする成分が多いと言われているからです。輸出相手国の1位は日本で、ヨーロッパよりも多いのです。多くのチョコレートメーカー、森永製菓、ロッテ、明治などがベネズエラのカカオ豆を使っています。そして毎年、ロンドンで開催されるチョコレートインターナショナル・アワードで各トップ賞を獲る半分位のチョコレートが必ずベネズエラ産カカオ豆を使っています。 そして、次に紹介したいのは、ベネズエラの奇跡と言われるエル・システマという音楽教育モデルです。エル・システマは、1975年にホセ・アントニオ・アブレウ博士によって設立された国の社会事業団体で、オーケストラとコーラスによるクラシック音楽の教育と集団活動を行っています。

 特徴は、完全無償です。国家が予算を負担しており、文化事業ではなく、社会福祉プログラムとして行っています。家庭の経済状況にかかわらず、すべての子が無償で集団での音楽教育が受けられる仕組みが原点で、子供達が自ら協調性や規律を学びながら、目標に積極的に取り組んでいく姿勢を育んでいくことによって、希望や誇りをもてることを目的としています。

 このプログラムは非常に多くの子供達の心を変えています。プログラムは、赤ちゃんの時から始める場合もありますし、ターミナルケアの子供を対象にしたものもあります。ある子供は、昨年、バイオリンのレッスンを病院で受けていました。本人の夢は舞台に立ってオーケストラと弾くこと。特別な許可を得て、病院から出て舞台に立って弾きました。その2カ月後に亡くなりましたが、この子が夢をかなえられたのは何よりもうれしいことではないでしょうか。

 インクルージョンという言葉が大事です。インクルージョンとは社会にすべての人が参加できるということで、これを実現します。

 その例として、ホワイト・ハンド・コーラスという障害のある子供達を対象にして作られたアンサンブル・コーラスがあります。白い手袋をして参加し、歌を歌える子供達と一緒に手話で演奏します。子供達は一緒にどういう手話にするのか、コリオグラフィー、振り付けも考えます。そのように手話を通して演奏しています。

 エル・システマは素晴らしい結果を出しています。世界的に活躍する若手指揮者グスターボ・ドゥダメルなど多くの一流音楽家を輩出しているだけでなく、子供達を犯罪や暴力から守り、学業面も含めてポジティブな影響を与えてきていることで、ユネスコ、米州開銀等からも評価されています。エル・システマのオーケストラと合唱団は、他の音楽団体とともにベネズエラ全土をはじめ、世界中にこのモデルを推進するために海外各地でコンサートを行っています。現在、日本を含む50以上の国々がエル・システマに影響を受けたセンターを創設しています。

 日本に、エル・システマ・ジャパンを設立して6年を迎えるところです。東日本大震災後に間もなく、ベネズエラとして何かできないかと考えていたところ、世界最高のオーケストラであるベルリンフィルのメンバーが「日本でエル・システマを始めてはどうか」というアイデアを出してくれたことがきっかけになりました。被災地の福島県相馬市と岩手県大槌町のすべての公立小中学校で始まりました。たった5年間で子供オーケストラとコーラスは素晴らしい成長を遂げました。今年4月に長野県駒ヶ根市でも始めました。先程のホワイト・ハンド・コーラスも東京で今年立ち上げに成功し、何と来月デビューします。10月22日です。ベネズエラのミュージシャンや相馬こどもコーラスと共に演奏します。

 エル・システマは、いろいろな場面で応用されます。最近、駒ヶ根市長が考えたのは、これをリタイアされた人に活かそうということです。リタイアすると社会になかなか出ず孤立してしまうことがある。そこにエル・システマが何かできるのではないかと検討しているところです。

 エル・システマ・ジャパンを設立してから毎年、青山学院大学や慶應義塾大学に頼んで調査を行っています。その結果はもう出ています。この子供達は全国の平均的な子供よりも多く親と会話することがわかりました。自立し、自己肯定感が高まっていることの証です。

 エル・システマでは毎年、発表会があります。ベネズエラからオーケストラが来日して子供達と演奏しますし、昨年は、なんと相馬の子供達が世界ツアーに参加して、ベルリンフィルと共演しました。YouTubeに映像がありますので、ぜひご覧ください。

 今日はベネズエラについて3つ紹介しました。エル・システマは10月22日に見られますので、どうぞお越しください。チョコレートはいろいろなコンビニでも売っていますので、どうぞ味を試してください。自然はベネズエラに行くしかありません。皆さん、ぜひお越しください。


    ※2017年9月13日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。