卓話


北陸新幹線時代の「とやま未来創生」〜地方創生から日本創生へ〜

2015年7月15日(水)

富山県知事 石井隆一氏


 3月14日に北陸新幹線が開業し、東京―富山間の所要時間が2時間8分になりました。開業後3か月の乗車人員数は昨年同期比で約3.3倍となり、期待以上といえます。例えば、富山県黒部市の宇奈月温泉の4、5月の宿泊客は昨年同期比46%増、高岡の国宝の瑞龍寺の拝観者は昨年比7割増となっています。富山駅近くの県立富岩運河環水公園の遊覧船の乗船者数は昨年比2.4倍で、その7割が首都圏をはじめ県外からの方です。また、この夏、楽天トラベルのネット予約の発表では、富山県に宿泊されるお客様は昨年比1.91倍と、伸び率で全国トップとのことです。

 富山空港は地方管理空港としては国内・国際路線ともトップクラスです。また、日本海側の総合的拠点港である伏木富山港のコンテナ取扱個数の過去10年間の増加率は1.6倍と、全国平均の1.3倍をかなり上回っています。最近、外国の大型クルーズ船の誘致に努め、寄港も増えてきました。

 富山県の自然的・社会的条件の魅力は、地震・津波・台風が極めて少ないことです。また、水が豊富でおいしい。さらに、自然的条件を活かし水力発電の比率が高く、全国で一番安価な電力が安定供給されています。

 富山県の雄大で美しく、時に厳しさもある自然の下で、勤勉で進取の気性に富む県民性が育まれてきました。全国学力調査では、小学生、中学生ともにトップクラスです。また、堅実な県民性から、企業に入るとロイヤルティが高く、平均勤続年数は全国2位です。保育所の待機児童がゼロで、女性が活躍しやすい環境です。生活保護率は0.33%と、全国一低い水準が続いています。

 富山県は、ものづくりが盛んで、日本海側で屈指の工業集積地です。医薬品の生産額は7年前の2.3倍の6,089億円となり、全国3位に躍進しました。全国1位の県とは900億円位の差です。また、国内では、2年に一度薬価基準が下がり市場の拡大が見込めないことなどから、海外マーケットに向け販路を拡大しています。その一環として、6年前、スイスのバーゼルと協定を結び、共同研究、委託・受託生産などを行っています。最近アフリカで流行したエボラ出血熱に、富山化学工業蠅班抻蛎膂絣愽瑤箸龍ζ姥Φ罎燃発した「アビガン錠」が効くことが実証されつつあります。

 4年前に、国の資金と県費で「ものづくり研究開発センター」を新設し、39の世界水準の最先端設備を導入しました。これまで県内199社、県外133社に活用していただいています。県外企業の中には本社が東京圏という企業や、子会社を富山県に設立した企業もあり、また、国際特許はもとより、中小企業庁長官賞などを受賞する企業も出ています。  富山県は米どころで、一等米比率は北陸4県中トップで88%、食味ランキングは「特A」です。園芸生産にも力を入れており、5年前に950万円だったJAとなみ野のタマネギの売上げが、昨年は2億3,000万円になるなどの成果がでています。

 農業も労働生産性を上げる必要があります。富山県では、昨年1年で生産年齢人口が1万3000人(日本全体では116万人)減りました。砺波は、チューリップの日本一の生産地ですが、オランダ産にこの20年押されてきました。数年前、その理由を調べて、オランダは正にハイテク農業で、チューリップの種をまいて球根を収穫するまで10アール当たり20時間であるのに対し、富山県では224時間かかっていることが判明しました。そこで、県と砺波市とで補助金を出し、省力化・ロボット化に取り組み、今年からは国に事業採択してもらい、あと数年でハイテクのチューリップ生産の実現を目指します。

 全国で2000万人がスギ花粉症で悩んでいます。20年前に発見した優良無花粉スギの大量生産に、県森林研究所が成功しましたので、これを商品化し、数年後には林業でも一定の収益が上がるようにしていきたい。

 新しい都市空間、観光名所づくりにも取り組んでいます。県立富岩運河環水公園へのお客様は、「世界で最も美しい」とされるスタバの立地、富山湾へのクルージングなどにより、昨年は140万人と7年前の2倍になりました。今年は新幹線開業で200万人を超すとの見方もあります。鉄軌道王国とやまの魅力も一層活かしていきたい。

 昨年10月、富山湾越しに見える立山連峰の雄大で美しい景観や、国連のNOWPAPの誘致と支援、先進的な環境保全活動等が評価され、UNESCOが支援する「世界で最も美しい湾クラブ」への富山湾の加盟が承認されました。タモリカップの誘致など、マリンスポーツの振興、サイクリングロードの整備、国際的なサイクリング大会の開催など新しいチャレンジを進めています。

 国際観光については、11年前に立山黒部アルペンルートを訪れた外国人観光客は約2万3000人でしたが、昨年は7倍強の約17万人になりました。7月16日には三井アウトレットパーク北陸小矢部が開業します。国際ブランドの商品を扱う専門店や飲食店が173店舗あり、年間300〜350万人の来場者を見込んでいます。13日の竣工式には香港や台湾などの旅行会社の社長や幹部が多数来場され、富山県の新たな観光拠点として高い評価をいただきました。

 昨年から今年にかけてNYで富山県の伝統工芸品をアピールする展示会を開催しました。NYのコレクターは、気に入るとその場ですぐ成約してくれることが少なくありません。ある作品については、「中々良いが、NYで売るには値段が安すぎる。2倍か3倍にしなさい」と助言され、そのようにしたら、すぐに売れたといったエピソードもあります。

 人づくりも大切です。富山県では、「14歳の挑戦」として、中学2年生全員に、商工業や農業、幼稚園、福祉等の職業体験などを1週間してもらいます。全国初の取組みですが、生徒からは、「大学卒業後の職業を決める一つの機会になった」、「勉強する意味がわかった」といった感想が寄せられています。

 また、本県独自に「とやま科学オリンピック」を開催し、自然現象や社会現象の根底にある原理等を論理的に考えてもらう、子ども達が持つさまざまな可能性を伸ばす、といった教育に力を入れています。

 若者や女性、熟年の起業を進めるため、10年前に「とやま起業未来塾」を開設しました。修了者の起業率は7割です。中には、入塾前の売上げが年間2,000万円だったのが2〜5億円となり、中小企業庁長官賞をもらったという人も出ています。

 外国への留学生や外国からの留学生の受入れの減少傾向もあり、本県と県内企業とが協力してASEANからの留学生を受け入れ、卒業後は県内の企業、あるいは東南アジアの支社で活躍してもらう仕組みも作りつつあります。

 高校の教育で日本史は必修でないため、富山県では6年前に独自に郷土史や日本史の補助教材を作り、子ども達に日本の歴史を教えています。下村文科大臣に日本史の必修化を要望してきましたが、次期学習指導要領で検討していただく方向となり、うれしく思っています。

 なお、万葉集の実質的編纂者とされる大伴家持は、越中国守として28歳から5年間赴任し、その間223首の秀歌を残しました。3年後に生誕1300年を迎えることから、その顕彰などを行う準備を進めています。

 富山県利賀村はアジアを代表する演出家・劇作家の鈴木忠志さんの拠点です。アジアや世界の演劇の拠点となるよう、県と南砺市が連携して国際芸術村構想を進めています。  また、これまでの環境保全の取組みが評価され、来年、G7環境大臣会合が富山県富山市で開催されることになりました。

 行政改革も一所懸命行い、この10年間で一般行政部門の職員を21%減らしました。ただ、必要性の高い医師や看護師、教員、警察官は増員しています。

 東京一極集中の是正は地方の活性化のためにも東京自体を安定的に発展させていく上でも必要です。そこで政府に全国知事会としてもお願いして、地方への人の流れをつくるための「企業の地方拠点強化税制」を創設してもらいました。また、首都圏での富山県の新たな情報発信拠点を、来春、日本橋三越新館の隣接地にオープンします。

 首都圏と中京圏や関西圏とを往来する年間1億1千万人の1割に相当する人がシフト又はオンする形で北陸新幹線に乗って北陸と往来して下さるとすれば、これまでの年間640万人が1700万人余になる計算です。北陸新幹線開業と地方創生を2つのフォローの風にして、東京−富山を含む北陸−関西を結ぶ新しいゴールデンルートが形成されるよう努めていきたい。意欲ある地域の新たな飛躍をサポートし、魅力ある地域が日本の各地に創生されれば、全体として日本が活性化する、そうした新しい国づくりを進めるため、地方の県ではありますが、富山県もその一翼、一端を担えるよう最大限努力してまいります。宜しくお願いいたします。


   ※2015年7月15日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。