卓話


イニシエーションスピーチ

4月27日(水)の例会の卓話です。

佐久間 徹君
由井 常彦君 

第4052回例会

「日本の経営者」
(財)三井文庫 常任理事
文庫長 由井 常彦君

 私の学問の専門は、経営史ビジネス・ヒストリーで、経済史が人口、所得、物価、貯蓄などのマクロ経済の変動を研究するのに対し、ミクロの経営活動の発展を対象とします。企業家と革新、経営戦略と組織、倫理と思想などの歴史を明らかにしようとするもので、「経営学」に分類されています。

 本日は、こうした私の専門にそくして、「日本の経営者、business leaders in Japan」をテーマとし、戦前すなわち大正から昭和初年の日本の経営者の特徴やタイプを、国際的な立場から考えてみたいと思います。現在の東京ロータリーの皆様の多くは、現代の経営者、ビジネスリーダーの方々ですが、皆様の一世代前の、日本で大会社が発展しはじめた時代の経営者のことを考えてみようというわけです。

 戦前、20世紀の前半は、世界的にみると、大企業が普及した時代で、日本では、明治の大実業家たち、澁沢栄一、三菱の岩崎弥太郎、安田善次郎、大倉喜八郎といった、近代産業の先駆者たちの時代から、次の世代の大企業の経営者が輩出しました。三井のリーダーで、工業倶楽部幹事長の団琢磨、鐘紡の武藤山治、王子製紙の藤原銀次郎、阪急の小林一三といった人々で、これらの人々は、創業者ではないが、近代的会社を大企業に育てることに成功した経営者たちです。いずれも慶応、一橋、東大などのエリート大学の立身で、一つの産業や事業の経営にうちこみ、トップ・エグゼクティブとして一業に通じた人々です。

 我々は、あまりに当り前と考えていますが、実は、こうした日本の経営者は、当時の国際的にみると、かなり特徴のある、日本タイプのビジネスリーダーでした。

 アメリカについてみると、二十世紀前半で活躍したビジネスリーダーは、USステールの、ジャッジ・ゲイリー、ゼネラル エレクトリックの C・コッフィン、そしてゼネラルモーターのA・スローンなどがもっとも代表的な人々でしたが、彼らは同じ大会社のトップ エグゼクティブでしたが、日本の経営者とはずい分違った経歴とタイプの人々でした。まず日本のようなエリート大学の出身者とは限りませんでしたし、大学を出て就職し、同じ会社で長く勤めて、ミドルから専務取締役を経て社長になったわけでもなかった。またさきにあげた日本の経営者は、だれもが自分の会社の専務取締役の時代が長く、専務として著名でしたが、アメリカの経営者たちは、いくつかの会社を渡り歩いた人々で、合併の過程において登場した人々が多かった。ゲーリー氏は製鉄業において、コッフィン氏は、電機メーカーにおいて、それぞれ合併のリーダーシップをとって成功した経営者で、文字通り職業経営者professional executiveと称されました。現代の野球選手のように、会社間を移動しましたし、そのたびに声果をあげた経営者でした。

 それではイギリスはどうかというと、イギリスの当時のビジネスリーダーの人々は、銀行家のサー・R・マッケナ、サー・A・モント、そして、サー・コートールズといった人々で、トップ・エグゼプティブとはいえ、アメリカとは全く違って、職業的な人々でなく、むしろprofessional manager といわれることを嫌った人々で、多くはサーとかロードとかの肩書きをもつ、政治家的なあるいは貴族的といえる人々でした。Ox-Bridge出が多く、その点では日本と似ていました。

 こんなわけで、当時の日本の経営者は、欧米のビジネスリーダーからは、しばしば誤解されました。団琢磨は、MITの出身の、国際人でした。それでも、自分を含め日本の経営者は社員の出身であるから日本では労資関係は対立しないとの説明が、欧米のリーダーたちに理解されないと、いつもこぼしていました。

 戦後の現代は、世界はグローバル化し、経営者の相互理解も大いに進み、またタイプも接近しました。しかしどこがDNAの違いがあることも否定できないようであります。

「食品を製造する仕事」

蠹豕めいらく
専務取締役 佐久間 徹君

 自分の職業分類は乳製品製造ですが、英語にありますDairy Food Productの方がぴったりとくる食品製造業に属しています。その名の通り今日注文を頂き、今日作って、今日届ける、という伝統的な業界です。

 日本における食品製造には「口にする物は不況がない」と言う楽観的な見方が多くありました。ところがごく最近は、少子化時代を迎え、特に「食糧消費の中心的世代である若年層の減少により数年後には日本での食糧需要は激減する」と、食品に対するバランス感覚は180度変化してしまいました。人の2倍食べる世代が急減する事実は間近に迫っていると云われます。

 また高齢化社会を迎え、今後、食を中心としたライフサイエンスが成長産業であるということ。医食同源とか食の多様化という言葉に象徴される通り、食がますます日本人の生活、というよりも健康や生命における重要性を増すと云われています。それに伴う食と健康への飛躍的な情報や関心の増大により、産業自体の成長の可能性も大ですが、同時にBSEや遺伝子組換、偽装表示や数年前に報道を賑わしました大事件にもあります通り、食への安心安全を守るための仕組みの強化、法令やコストは特に中堅の食品会社には厳しい負担とリスクです。

 世の中には非常に豊富な情報量を持つ大変「贅沢な」消費者と、あふれる食品に対しての情報量を持たない「無防備な」消費者に二極化しているというのが今の傾向です。贅沢な消費者は、膨大な情報源からのあらゆる健康や栄養に係る機能や対応を食品に求めています。一方で、無防備な消費者、特に女性の社会進出や簡便食品、嗜好食品等の需要増に伴う若年齢層の栄養摂取のゆがみと中高年男性の生活習慣病の増加は社会的な問題となっています。そのために政府機関が中心となって提唱された「食育」というものが盛んになってきました。これまでは原則的には成長段階の子どもに対する教育というのが中心でしたが、最近では中高齢者に対する食育も盛んです。

 食品会社は今後ますます、このような多種多様の消費者の方をきめ細かく対象にして食品開発を中心に考えるべきで、すなわち「欲しいものを欲しいときに欲しい人に欲しいだけ」に加え、更に「おいしく健康で簡便で安全で他にはない」となりますが、二度と食への安心安全を損なうことがあってはならないという観点からの食品衛生法・計量法・食品表示法・不当競争防止法・健康増進法・薬事法などが待ち構えています。

 中高年の食育という意味で今もっとも関心が高いのが「老化を一つの病気と考え、これを食により対応する」というアンチエージングです。遺伝的な要因を別にすれば、老化現象の最大の原因は酸化と肥満であると言われています。運動や睡眠と並行し、抗酸化の食品である緑黄野菜や豆類・きのこ類を積極的に摂取すること。また肥満を防ぐために、油分を控えることという当然のことから、食事を出来るだけ分けて取ること、良好な水分の十分な摂取、そして唐辛子などのカプサイシンやカテキン・にんにく・食物繊維といった栄養素の摂取まで、大変有効です。ただ、表示はもちろんのこと、こういう形での商品の紹介自体、薬事法や食品表示法に抵触してしまいます。商売には大変難しい業界です。