卓話


「NPOの地域教育力再生」

2010年3月10日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

特定非営利活動法人 教育支援協会
代表理事 古田 博彦 氏

 日本にNPOに関する法律ができてから10年以上経ちます。現在、4万近くのNPOが活動していますが、年間の活動で事業規模が1億円を越えている団体は1%未満です。まだその程度の活動しか作り出せていませんが、少しずつ大きくなりつつあり、若手のNPOが増え、確実に社会の一つのセクターとして成長しつつあることもご理解ください。

 私たちのNPOが取り組んでいるテーマは「地域の教育力の再生」です。私が代表を務めている「NPO教育支援協会」は全国にネットワークがあり、各地に事務局を作り、各事務局がそれぞれの事業を引き受けて、大きくなった所から各県のNPOとして独立していっております。ちなみに、現在活動中の事務局は東京・千葉・埼玉・群馬・新潟・静岡・沖縄の7地区、県のNPOとして独立している地区は北海道・長野・東海・関西・九州の5地区です。

 活動の種類は以下のようで、こうした活動を各地域の必要性に応じて行っております。
  ◆自然体験活動事業
  ◆地域教育事業
  ◆不登校生徒・児童支援事業
  ◆民間教育指導者育成および派遣事業
  ◆生涯学習講座事業
  ◆文化教育関係事業

 これらの活動の中で中心になっているのは自然体験活動と不登校生徒・児童支援活動ですが、他にも自主的な事業をしたり、行政から委託を受けたりして事業運営をしています。

 自然体験活動というのは、都会で集めた子供たちを各地の農山村で活動するNPOに送り、その場所で活動を作り出し、地域の雇用を生み出しています。

 また、放課後の家庭でご両親が不在だという家庭が増えています。そのため、教育支援協会は「放課後からの教育改革」もテーマのひとつにしています。

 ご存じの方も多いと思いますが「カバゴン」の愛称で親しまれた阿部進先生は,我々の協会の発起人の一人です。彼を中心にした理科実験「おもしろサイエンス」や子供の英会話、日本語の「素読や暗唱」などの活動を、放課後の学校内でさまざまな地域のボランティアの方々が集まって行っている活動です。この事業は従来の「学童保育」ではなく、全児童を対象にして、「学び」を中心にした放課後の学習支援活動です。

 子供たちの奉仕活動も各地で作っています。横浜では、地域の清掃活動を子供たちがやってエコマネーを稼ぎ、一年に一回エコマネーでしか買えない駄菓子屋を開店し、そこで使えるようにしています。現在6万人の子供のボランティアが参加して活動を楽しんでいます。

 子供たちは年間8千8百時間の時間を持っています。その中で学校が引き受けている時間は1千8百時間です。家庭での時間、寝る時間、それに地域で引き受ける時間などを計算してみますと、地域で引き受ける時間はおよそ3千時間になります。この時間をちゃんと子供たちが育つような環境を作る時間にしなければなりません。

 「放課後からの教育改革」を支えるのは「市民力による教育づくり」です。体験から学ぶ、不思議だなと思う心を育てる、こうした学びの環境は必ず真の生涯学習社会の確立につながると考えています。

 私たち大人が確認すべきこととして、「学校への適応は社会への不適応」ということがあります。学校は近代が創造した一つの優れた手段ではあるのですが、今の時代、学校だけでは子供は育たない状況になっています。

 日本は教育で成功した国です。そのゆえに、その成功体験が改革を妨げていて、子供たちは学校だけでは育たないという当たり前のことが忘れられています。この部分をNPOが埋めていこうと考えているわけです。

 「地域」という概念について、1990年代までの認識では、学校・地域・家庭は相互に協力し合うものでした。しかし、21世紀の認識では学校も家庭も地域の中に存在するものと位置付けられています。ですから、地域社会の力が衰えれば比例して学校も家庭もその力が衰えます。

 「今、子どもたちの何が問題なのか?」というと、最も深刻なのは1980年代から起こってきた「学習意欲の低下」です。

 1980年代の国際調査でも日本の子供たちの「学習意欲」は世界でも最低レベルです。しかも「できる子どもも学習意欲がない」のは問題だと思います。

 基礎・基本の問題を調査するIEAの学力調査では問題は発生していませんが,記述問題や意見を述べたりするPISSAの調査では得点が低く、特に大量の無回答が発生しています。間違えることを怖がる,自分の意見を持てない子どもが多いのが問題です。つまり、今の日本の教育の基本的欠陥は「考える力がない」ということです。

 我々の豊かな社会を象徴する事件に「オウム真理教事件」があります。オウム真理教の信者のほとんどが受験エリートです。彼らには人間として普通の感情が欠落していました。とてもよい家庭があって、教育熱心な親がいて、それでも子どもを駄目にする場合があります。

 このように、家庭だけでは子どもを育てる能力には限界があって、実は、地域の大人だとか、さまざまな社会の人間がかかわるなかで、子どもたちへの厳しさが与えられます。親だけで厳しさを与えるのは難しくなってきていると思います。

 ではどう対応するのか。教科書を厚くして授業時間を増やせばよいか。そんなにお手軽にはいきません。大人にとって便利で、豊かな社会は子供たちの育ちにはマイナスの影を落とします。それをクリアーするためには、自分の地域の子どもたちはちゃんと自分たちで引き受けて、大人が腹を据えて、社会全体での総合的で持続的な取り組みを進めることが必要です。

 そうした事例として、2週間の間、子どもたちが牧場で馬と一緒に生活する、北海道・十勝での自然体験活動、「命の尊厳プログラム」を紹介します。

 子供たちは集まってきた初日、2日目あたりは、友達同士で大体、マンガの話かゲームの話をしています。3日目あたりから仲間を気遣うとかその日やったことについて共通の話をするようになります。このプログラムは2週間のプログラムですが、一泊や二泊の活動では全然効果が出ません。せめて1週間程度の体験活動が必要なのですが、これを学校教育で進めようとすると学校の抵抗はすごいものです。「そんなことをしたら授業時間がたりなくなる」というわけです。1泊や2泊の体験学習では本当の活動ができないというのですが、なかなか理解が得られません。

 「命の尊厳プログラム」では、全然知らない所から集まった子どもたちが出会います。農山村で共に遊んで、馬と暮らして、乗馬訓練をした後で馬旅のキャンプをして、2週間して「ふりかえり」をしてから別れて帰っていくというプログラムです。

 キャンプを始めて3日目あたりから馬と一緒に生活します。初めに気になっていた馬の糞の「臭さ」も感じなくなります。それは馬への愛情が芽生えてきたからです。

 馬旅に出るといろいろなことが起こります。夜に自分が食事をしていて馬にも餌をやることに気づきます。少しずつ生き物(命)を扱うというのはどういうことなのかに気づいていきます。こうして馬旅が終わると、子どもたちと馬との距離がとても近くなります。

 最後に「ふりかえり」という時間を4時間ぐらいとります。自分の体験を通して感じたことを書き出させます。この体験が「学力」というものの土台を作るのだと思います。学校で黒板を前にして座っているだけではこの力はつきません。

 「命の尊厳プログラム」を体験して、子どもたちは、初め馬は乗り物だと思っています。自転車と同じ感覚です。ところがそうではない、馬は生き物なんだ、自分の仲間なんだということが分かってきます。そうすると,「糞が臭くなくなった」とか「走る時に,腹を蹴ることがつらかった」とか、「無理矢理ハミを噛ませたが明日からは強引なことはしないようにしよう」とか、生き物として接しようとする芽が出てきます。このような活動の中で子どもたちが気づくことはいっぱいあります。

 学校教育と違って自然体験の教育というのは子どもたちに同じような成果が現れるわけではありません。しかし、体験を積み上げていけばいろんなことに気づく。だから一回行っておしまいではなく、学年が変わるごとに行って、変わったことに気づいてほしいと思います。

 私たちの活動は各地のロータリーの方々との連携が不可欠です。どうか皆様のご協力とご理解をよろしくお願いいたします。